山田行道の不安
解決が更なる疑問を生み出すなど山田行道は想像もしていなかった。
まさか恭子が元風紀委員長で、まさか恭子が年上で、まさか恭子が卒業しているなんて…
山田は何一つ知らなかった。
フと。
自分は本当に恭子の恋人なのだろうか。
そんな疑問まで抱き始める。
何故ならば、山田が考えれば考えるほどに彼は『柿田恭子』の事を何も知らないのだ。
知っているのはデートでの何気ないやり取りと弟の優一だけ。
山田は柿田恭子が急に遠い存在に思えてきて、とてつもない不安感に襲われた。
ここへ来て自分の恋人である恭子と今まで噂で聞いきた風紀委員長である恭子が別人に思えてきたのだ。
─ いや、あれは確かに、柿田恭子だ。
不安を取り除くように、あの日風紀室でやり取りされた恭子や日高との会話を思い出す。
確かに、恭子は恭子だ。
しかし何故だろうか。
山田行道の不安は消える所か増していく一方で、どれだけ考えようとも嫌な不安が拭えなかった。
「山田?」
声を掛けられ、ハッと息を吐く。
「顔色悪いな、大丈夫か?」
優一が奇妙な顔で尋ねてきた。
余程顔色が悪いのか心配だと顔に書いてある。
何故だろう。
ここ最近、感情が薄いはずだった優一の思ってる事が手に取るように分かってしまう。
「あのさ。」
「ん?」
「恭子、元気か。」
「…まぁ、今のお前よりは元気だろ。」
優一がフッと一瞬可笑しそう笑う。
しかし直ぐに咳払いをし、笑ったのを隠すようにそっぽを向いた。
その一連の仕草が余りにも恭子にソックリで、山田は訳も分からず少し鳥肌が立った。
「俺…、」
「ん?」
「今日な…、アイツに会いたいんだけど、会えると思うか?」
優一は暫く考えてから「メールでもしてみれば」と言った。
「何で、お前が嬉しそうなの。」
「………は?」
「…わりぃ、勘違い。」
山田は無理矢理顔を背けた。
勘違いにも程がある。
『メールをしてみれば』といった優一が、嬉しさを押し殺すいつもの恭子と似ていたなんて。
気の所為だ。
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