山田行道の好意
「という夢を見た。」
「………。」
「って言うのは冗談でー、これがマジな訳よー。」
翌日、山田行道は柿田優一に酷くノロケまくっていた。
昼休みに捕まったが最後、恭子とのデート話に始まり、キスに至るまでの詳細を嬉しそうに語った。
「でもな、そこで恭子が恥ずかしそうに言ったんだ。『キスはまだ、恥ずかしい』ってな。マジヤバかったー、俺良く我慢出来たわ。マジ可愛かったし、興奮し過ぎて声だけでイけそうだったわ。てか帰って速攻抜いた。もうあれだけで暫く生きてけるな。」
興奮が治まらない山田は声高々と語りに語る。
恭子は可愛い、興奮すると。
「お前が興奮してるのはよく分かった。落ち着け、」
「いーや落ち着かない。もう俺マジフォーリンラブだから。あ゙ー、抱きてぇ、してぇ。」
ここが空き教室なのを良いことに山田は叫ぶ。
しかしあまりの内容に優一の眉がピクッと動いた。
「……恭子に手、出すなよ。」
「んー?それは約束出来ないな。アイツ可愛いし。」
「良いから出すな、絶対出すな。」
「待て待て待て、まさか嫉妬かぁ?いくら恭子が可愛いからって。」
呆れたように言う山田を優一は不機嫌な顔で睨み付けた。
その顔が今までみた中で一番怖い表情で山田は内心驚く。
こんなに分かりやすい顔をする優一を山田は初めて見た。
「心配すんなよ。俺、恭子が嫌な事は絶対しないから。」
「……。」
「アイツが良いって言うまでは幾らでも我慢する。本気で好きだから。」
山田は優一の目を見てしっかりと伝えた。
すると優一の鋭い目が弱まり視線を逸らされた。
「恭子の、どこが好きな訳、具体的に。」
優一が小さな声でたずねてくる。
具体的に、そう問われると実際には難しいものだ。
山田はウーンと思い悩む。
あの時恭子は『全部好き』だと言った。
─ なるほど、全部好きが一番しっくりくる。
だけど…
「全然素直じゃない所とか、全体の雰囲気とか…ちょっと堅物な所、だな。」
「……。」
「まぁ全部好きだけど。」
山田は素直な気持ちを告げ、昨日の恭子を思い出して笑った。
本当に彼女は素直じゃない。
嬉しくても笑うのを我慢したり、あえてふてくされた表情を浮かべたり…
そんな不器用な所がとてつもなく可愛かった。
山田は恭子に対して感じている好きな所を出来るだけ優一に伝えた。
本人に言えば意地を張ってもっと感情を隠そうとするかもしれない。
だから弟の優一にだけは思う存分に本音を吐き出せる。
山田は本当に楽しそうに恭子の事を話し続けた。
「姉貴には内緒な?アイツ照れ屋だから。」
「…お前ホント、恥ずかしい奴だな。」
「うるせぇ。」
柿田恭子への想いを一方的に語られた優一は聞いてるこっちが恥ずかしいと顔を手で覆った。
優一が表情を隠す姿が、いつも見る恭子の姿と重なる。
山田は無性に恭子に会いたくなった。
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