山田行道の本気
「店、入りましょうか。」
「…おう。」
二人は何が食べたいか相談して適当なお店へ入った。
その拍子に離した手を山田はコッソリ服で拭く。
手汗が酷い。
ショッピングモールはそれなりに空調が効いているというのに、緊張と興奮の所為で本当に手汗が酷かった。
ご飯を食べ終わった二人は、行くあてもなくブラブラと適当なお店を回った。
山田は何度か恭子の手を握ろうとしがタイミングを掴めずに、気付けば遅い時間になっていた。
「…そろそろ帰るか。」
普段通りの平常心を装いながら、山田行道の心情は荒れに荒れていた。
あれから可笑しいのだ。
隣を歩く柿田恭子と手を繋ぎたくて仕方がない。
もう一度、あの手に触れたい。
恭子の手を触りたい。
指を絡ませて、ギュッと握り締めたい。
そんな事ばかりが脳内を埋め尽くしていた。
─ 想像するだけで興奮する。
山田はグルグルと色んな事を考えながら夜道を歩いた。
「柿田、送ろうか?」
「…いや、大丈夫です。」
「…いや、送るって。ほら今日の柿田可愛いし。」
「…服が、ですよね。暗いから大丈夫ですよ。」
暗いから余計危ないんだよ、と山田は内心突っ込んだ。
自然と立ち止まって話し合う。
今の時間、周りに人気はなかった。
「危ないしマジ送るわ。な?」
「…別に、大丈夫。」
「柿田、今日マジで可愛いの。ほんと自覚あるか?」
「…今日は今日はって、いつもは可愛くないって事ですか。」
ムスッとした恭子に何故だかキュンとしてしまう。
確かに今まで恭子を可愛いと感じた事はなかった。
なのに今日1日一緒に居て、知れば知る程スゴく可愛いと山田は感じていた。
「俺、今まで適当だった。でも、これが普通なら今まで損してたんだな。」
「…何の話?」
「恋愛だよ、恋愛。今日スゲェ楽しかったし興奮した。今日感じた事が普通なら、今まで相当損してたよな、俺。」
山田は今日1日を終えて感じた全てを素直に言った。
日高があの時言っていた『マトモな付き合い方』が分かった気がしたのだ。
今まで長続きしてこなかった恋愛に、正解を見つけた気がした。
「やっぱり、天使だったんだな。柿田恭子。」
「……は?」
「今思えば一目惚れだった。大切にする。」
山田行道は本気だった。
目の前に居る柿田恭子の肩に手を置くと、一世一代の言葉を放った。
「柿田恭子、付き合ってくれ。」
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