山田行道の緊張

二人がデートの場所に選んだのは無難なショッピングモールだった。


「柿田、大丈夫か。」

「…何が。…ですか。」

「…風邪気味なんじゃねぇの、無理すんなよ。」


山田は心配げに言うと恭子の頭をポンと叩いた。

すると何故なのか…恭子が恨めしげに睨んでくる。


─ 何故、wat?


山田は眉間に皺を寄せた。




さきほどからずっと恭子は話しながら何度か咳払いをしていた。

山田はそれを見て風邪気味なのだと予測していたが…見当違いだったか。

3月といってもまだ肌寒い季節。

風邪と思うのが普通なのに何故こうも睨まれるのだろう。


「いやいや、何で睨んでるの?」

「…や、だって。あの山田行道が人を気遣える人間だったなんて。」

「…失礼極まりないな。」


そう言う事かと納得して山田は恭子を睨み付けた。

いくら可愛い身なりになろうと柿田恭子は柿田恭子。

可愛くない事に変わりはない。


「可愛くねぇな。」

「…悪かったな。」

「あ゙?」

「……貴方の真似をしただけです。」


恭子は不機嫌そうに言うと少し歩く速度を速めた。


「ちょ、柿田。それよりも"普通のデート"ってやつを教えてくれるんじゃねぇの?」

「……。」


山田の言葉にピクッと反応し歩く速度が元に戻った。

恭子は暫くだんまり考え込む。

その横顔を山田は見つめた。



─ 普通とは何ぞや。



山田の目がそう訴えかけていた。


「て。」

「…て?」


恭子は一言、てと言って山田を見た。

そして距離を一気に詰め、山田の指と自身の指を絡め取った。


「これが、普通。」


恭子の顔に書いてある言葉を一つ上げるとするならば…

『羞恥心』

…が的確だろう。


照れを隠す為か、あえて無愛想に振る舞う不慣れなさが新鮮で山田の胸が高鳴った。

普段とのギャップが凄まじい。



─ これは、ヤバい、可愛い、スゲェ可愛い。



そっぽを向いたり髪を触ったりと、どこか落ち着きのない恭子を目の前に山田は今までにないトキメキを感じていた。


あの柿田恭子が可愛い。


この事実に驚きながらも身体は素直で、ドキドキと胸の興奮がおさまらなかった。




二人はお店にも入らず無言で歩き続けていた。

しかし、それだけでも山田は十分なくらい満足していた。

恭子と繋がれた手の平に幸福感を覚える。

何となく、裾に隠れた細くて綺麗な恭子の手をギュッと握ってみた。

すると暫くして、恭子の手がギュッと握り返してくれる。

こんな何気ない動きにまで身体は素早く反応し、ドキドキと鼓動が速くなる。


山田は女子を相手にここまで興奮したのが初めてだった。




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