山田行道の決戦
あれよあれよと言いくるめられ決戦の土曜日。
何故決戦か。
デートの相手があの柿田恭子だからである。
山田は待ち合わせ場所でタバコを吹かしながら貧乏揺すりをしていた。
乗り気のなさが態度に滲み出ていた。
「…え〜っと、柿田さん…っすよねぇ。」
「…まぁ、」
山田は手持ちのタバコを落としそうになっていた。
いつもは真面目な風貌の柿田恭子がいつぞや見た天使の女子でそこに居た。
普段の印象からは想像出来ない可愛らしいワンピースに袖の長いカーディガン。
ペッタンコのサンダル。
薄ピンクの頬。
少し潤んだ伏せがちの大きな目。
少し巻いたフワフワの黒い髪。
─ 可愛いな、オイ。
山田行道は目の前にいる柿田恭子のとてつもない可愛さに驚いていた。
普通に可愛い、普通以上に可愛い。
「……行きましょうか。」
「…おう。」
山田がタバコの火を消したのを見て恭子がそう言った。
こうして二人が並んで歩くのは初めての事だった。
隣を歩く恭子が可愛らしい事もそうだが、あまりにも慣れないシチュエーションに山田は内心かなり戸惑った。
山田はよく知った友人とデートをするのが初めてなのだ。
今まで付き合ってきた人達は知り合って間もない期間でデートをしていただけに、恭子とデートをする事が山田にとっては戸惑いを与えるものでしかなかった。
「で、どこへ行きます。」
「…どこ行きたい?」
「私は…、別に。」
会話が続かない。
山田は脳内で共通の話題を探した。
「ぁ、優一、弟は元気か。」
「……普通ですよ。」
「あ、そう。」
いきなり何を言い出すのかと奇妙そうに答えられた。
確かに…今の話題は無理がある。
「はぁ、そんな無理に気を使わないで下さい。いつも通りで良いですよ。」
「…おう。ってか、いい加減敬語やめねぇ?そっちの方が気になるわ。」
「…癖なので、変えるつもりはありません。」
「マジかよ。」
いつも通りに話し出した恭子のお陰か、山田の緊張が一気に解けた。
山田は笑いながらもう一度恭子を見る。
─ やはり、外見だけは恭子らしからぬ天使の風貌だ。
そんな失礼な事を思った。
「柿田、可愛いな。」
「………は?」
「はって…お前。もうちょっと可愛いリアクションしろよ。」
「……。」
緊張がなくなったお陰か、山田は素直に『可愛い』と発言していた。
しかし当の本人である恭子はポカンと口を開けている。
可愛いと言われ慣れていないのが目に見えて分かった。
「本気で、言ってるんですか…?」
「あぁ勿論、可愛いぞ。」
「………、」
「服が。」
恭子はポカンとした表情から一変、ムスッと不機嫌な顔をした。
その表情の変化が可笑しくて山田は吹き出すと盛大に笑った。
「おまッ…、マジ可愛いのな、」
「……服が、ですよね。」
「いやいや、悪かったな。そんな怒んなよ。冗談だからさぁ…、」
山田は尚も笑いながら、恭子に軽い調子で謝った。
恭子のピンク色の頬をつついて心底面白がる。
山田行道に反省の色は見えなかった。
「可愛いのは当然です。貴方の為に選んだんだから。」
柿田恭子はそう言うとプイッと顔を背けた。
ドキリ、山田の胸が高鳴る。
自分の為に服を選んだという恭子が本当に可愛かった。
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