16
長かった謎の撮影会も終わり、僕らはお父さんの待つ車に向けて移動した。
「金井!」
「あらまた…人気者ね、ふふ。」
「金井っ…やっと、見つけたっ…、」
ハァハァと息を乱して走ってきたのは吉沢君だった。
何で…と思う。
だって吉沢君との事は終わったはずだ。
今日までずっと、忘れようと必死に頑張ってきた。
なのに何で…。
「後悔しない為に、きた、」
「っ……、」
「はぁ…。俺は、やっぱり金井と一緒に居たい。仲良くしてたいって今でも思ってる。喧嘩別れみたいなのは嫌なんだ、」
引き止められた理由を聞いて、お母さんは何も言わずに先に行ってしまった。
僕は吉沢君と改めて向き合う。
「金井が好きなんだ。付き合って欲しい。」
真剣な眼差しで言われる。
それは僕が今日まで拒んできた事だった。
「金井の気持ちはどこにある?」
「僕は…、」
「まだ俺、金井の事なんも知らないのに…諦めんのが早すぎる。俺の事だって金井に知って欲しい。」
「……。」
僕は吉沢君が好きだ。
その気持ちは変わらない。
僕だって吉沢君を知りたいし、僕の事をもっと知って欲しかった。
「僕も…吉沢君のこと好きだよ?」
「…良かった、」
「付き合うのは…よく分かんない。もうちょっと時間貰っても良いかな?」
これが今言える一番の答えだった。
僕にはそもそも付き合うという事がよく分からない。
告白してされただけでも余裕がないのに、付き合う事に関してまで考えが追い付いていなかった。
「待ってる、ずっと。だって俺の片想い長いからな。絶対今以上に好きにさせてやるから。」
「…うん。」
僕は照れて俯いた。
そんな事を言われて、もうこの時点で好きな気持ちが増してしまった。
吉沢君はズルい…なんて思う。
その時、後ろからうちの車がきた。
僕がそっちを見つめていると自然に吉沢君も車の方を見た。
「話は終わったか?」
「うん。」
お父さんに窓から話し掛けられる。
もう吉沢君とお別れしなくてはいけない。
「じゃあね、吉沢君…。」
「いや待て。俺金井の連絡先知らねぇよ。」
今更な事に驚いた。
確かに僕は吉沢君の連絡先を知らない。
「アナタご両親は?もし一人なら今から昼ご飯に行くから一緒に来れば良いじゃない。ねぇお父さん。」
「そうだな…もし良ければどうぞ。帰りも送っていくよ。」
両親は吉沢君に向かってとんでもない提案をした。
僕は急な展開にドキドキしてしまったけど、吉沢君は笑顔で賛成した。
車の中に、隣に吉沢君が居る。
今まで手の届かなかった人がこんなに近くに居る。
まるで夢のような現実に頭がクラクラとした。
「そう言えば…二人は写真撮ったの?」
「あ…撮ってないかも。」
「じゃあ校門で撮りましょうよ。」
昔から記念写真を大切にしているお母さんはそう言って、校門前で一度下ろされた。
吉沢君と目が合う。
『恥ずかしいね』
『そうだな』
目だけで会話が出来たような気がして、何だか可笑しかった。
僕の願いは受理されなかった。
でもあの時、もし本当に辛い感情を忘れていたなら今の僕達は居なかった。
きっと何も変わらなかった。
車から見える僕らの母校にサヨナラをして、そして願う。
いつかまた笑って皆と会えますように。
こうして僕の卒業アルバムは完成した。
end
▼▽
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!