12
(side:吉沢)
「おはよー。ざわさん。」
「…おう。」
翌日、本当に平村が話しかけてきた。
まるで昨日の冷たさが嘘のような雰囲気で、心底ホッとした。
「俺のおにゅーの髪型どう?似合ってる?」
しかも普通に話しかけてくれた。
それが嬉しくて俺は久々に心から笑っていた。
「似合ってる似合ってる。でも寒いだろ?」
「じゃあ吉沢暖めてくれる?」
「誰が。頭にもマフラー巻いとけ。」
俺は平村が巻いているマフラーの先を頭に被せた。
すると平村が「ひどいー!」なんて笑って叫ぶ。
そんな何気ないやり取りが嬉しくて、心から楽しいと思った。
「朝からうるせーな。落ち着けよ。」
「手島〜!吉沢が苛めてくるー!」
「苛めてねぇよ。こんな寒い時期に髪の毛切るからだろ?」
「確かにな。猿みてぇ。」
「二人共酷い…。」
俺達が話しているとクラスの空気が変わったのが分かる。
三人で話すのは久し振りで、注目されているのを感じた。
「俺ら注目の的?人気者は辛いなぁ〜…。」
「ただお前がうるせぇだけだろ猿が。」
「えー!俺そんなに猿っぽい〜?吉沢もそう思う?」
「そんな事な…見える。」
「酷い……。」
泣き真似を始めた平村に俺らは笑った。
懐かしい、だけど昨日までこうしていたような錯覚も起こる。
何であんなに心の距離があったのか分からないくらい俺らは普通で、いつも通りに笑った。
それから俺達は三人で過ごした。
今まで起こったことが嘘みたいな…夢だったとさえ感じる時間を過ごした。
ただの平凡な日常が一番の幸せだと気付いて、俺はもう今の幸せを失わない為に二人との時間を大切にした。
「金井〜!あのさー!」
小西の声にドキッとする。
クラスが同じだと存在を無視仕切れないのが最悪だった。
お願いだから消えてくれ…なんて本気で思う。
好きだからこそ金井の存在を近くに感じたくなかった。
「長かったような…短かったような…。」
「何だいきなり。」
「だって明日卒業式じゃん?一応浸っとこうかなって〜。」
「一応とか言ってる時点で意味ねぇしな。」
平村は相変わらずだった。
特別俺を意識しているとも感じないし、むしろあの時の告白はloveではなくlikeでは?とさえ感じる。
それならそれで俺も気を使わなくて良いし、何だかんだで無事卒業出来そうで安心していた。
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