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(side:平村)

世界は何て残酷なんだろうと俺は思った。


「手島…俺な、今ちょっと幸せだったりするんだ。」

「……。」

「でも理由聞いたら普通にドン引くと思う。スゲェ残酷だから。」


俺は毎日手島の部屋に入り浸っていた。

一人は寂しい。

一人で居ると余計な事ばかり考えて、時間が経つのも遅く感じた。

だから少しでも嫌な事を紛らわせたくて手島と一緒に居た。


「今日の吉沢一人だったじゃん?だから内心ざまぁみろって思ったんだよ。でもな、だからこそ誰のモノにもならないって安心してる自分も居るんだ。」

「普通にひでぇな…。」

「思うもんはしょーがないし…。」

「ハァ…マジで吉沢なんかのどこが良いんだか。」


それは俺も思う。

何でこんなに惹かれるのか理由が分からなかった。

気付いたら好きで、気付いたらどうしようもないくらいに依存していた。

吉沢が居なければ耐えられないって本気で思っていたし、吉沢が居ない世界は有り得なかった。

だけど世界は残酷で、吉沢が居なくても地球は回る。

教室で一人ポツンと静かに座る吉沢を見る度に、世界は残酷だと思った。

金井君には北原君が居て、俺には手島やコニタン、クラスメートの皆が居る。

例えそれが上辺だけで作った関係でも、俺にとっては救いようのある世界だった。

なのに吉沢には何もない。

昔はあんなにキラキラと輝いて見えた特別な人が、たった一人でそこに居る。

世界は残酷だ。

吉沢が不幸であればあるほど幸せだと感じる自分も、その残酷な世界に組み込まれていた。


「後で行くか…。」

「どこに?」


手島の独り言に質問する。

しばらく間が空いて、返答してくれた。


「吉沢のとこ…。」

「なんで?」

「ダチだし…。」

「俺は?」

「お前もダチだけど…何か不満か?」

「うん、吉沢と仲良くしないでよ。手島が居なくなったら俺が一人になる…。」


我が儘なのは分かってる。

だけど不安だった。

吉沢と手島は元々親友で仲が良い。

だから俺の知らない所で二人が一緒に居るのは耐えられなかった。


「俺はお前のもんじゃねぇんだよ。そんな我が儘通用すると思うな。」

「……けど、」

「けども何もねぇ。そこまで依存するなら縁切るぞ。」

「っ……!」


俺は焦って手島の目を見た。

手島が居なくなったら困る。

だって手島が居るから頑張って学校に行けたんだ。

もし縁なんて切られたら、それこそ学校を辞めたくなってしまう。


「冗談だ。泣くなよ?」


目が合うとニヤリと笑われる。

そんな冗談は止めてくれと本気で思った。


「吉沢に会って何話すの?」


二人が会う事に耐える代わりに、せめて会話の内容くらいは把握しておきたかった。


「さぁな。」

「何か話したい事あるんじゃないの?」

「ねぇよ別に…。」

「じゃあ何で?」

「ハァ…ダチと会うのにいちいち理由なんてねぇよ。」


手島は呆れたように溜め息を吐いた。

そうなのかな…友達ってそんなもんかな。

色々と麻痺していて俺にはよく分からない。


「それよりお前はどうすんだよ。」

「何を…?」

「告白。ちゃんとしないのか?」


何を今更って思った。

もう振られているのに告白なんて馬鹿のする事だ。


「馬鹿なこと言うなよ。俺はもう吉沢とは話さない。」

「でも好きなんだろ?もうすぐ卒業だし、後悔する前に言っとけよ。どうせ別れるんだからタイミング良いだろ。」

「簡単に言いすぎ…。」

「こんな終わり方じゃ吉沢も可哀想だ。」

「…。」


世界が残酷である事をきっと手島は知っている。

俺にとってそれは幸せに値するけど、手島にとっては見てられない現実なんだろう。

手島は優しい。

俺と一緒に居ても吉沢の心配だってしっかりしている。

なのに俺が最低な事を言ったって責めたりはしなかった。


「小西の言葉を借りるなら…平村は天然な天使なんだろ?だったら最後まで嘘突き通してやれよ。」

「まさか…笑って話し掛けろって…?」

「別に笑わなくても良い…ただ好きだって言ってやればアイツ単純だから喜ぶんじゃねーの。」

「フッ…何それ。そんなに単純じゃないでしょー。」


想像して笑った。

でもやっぱり俺では吉沢を幸せになんて出来ない。

だって吉沢は俺じゃなくて金井君を好きだから。


「嬉しいだろうよ…。今絶望的な状況だから余計にな。」

「酷い話…。しかもそれかなり計画的じゃね?」

「別に良いだろ。計画的だろーが救われるもんさえあれば。これ以上の不幸はないんだし、最後ぐらい幸せな夢見させてやれ。」


手島はニヒルに笑って俺を見た。

俺の気持ちはグラグラと揺れる。

吉沢の不幸をとるか、幸せをとるか…。

こんな俺でも吉沢を幸せに出来るのか…。

よく分からなくて、だけど手島の優しさだけは強く感じていた。




あきゅろす。
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