11
(side:平村)
世界は何て残酷なんだろうと俺は思った。
「手島…俺な、今ちょっと幸せだったりするんだ。」
「……。」
「でも理由聞いたら普通にドン引くと思う。スゲェ残酷だから。」
俺は毎日手島の部屋に入り浸っていた。
一人は寂しい。
一人で居ると余計な事ばかり考えて、時間が経つのも遅く感じた。
だから少しでも嫌な事を紛らわせたくて手島と一緒に居た。
「今日の吉沢一人だったじゃん?だから内心ざまぁみろって思ったんだよ。でもな、だからこそ誰のモノにもならないって安心してる自分も居るんだ。」
「普通にひでぇな…。」
「思うもんはしょーがないし…。」
「ハァ…マジで吉沢なんかのどこが良いんだか。」
それは俺も思う。
何でこんなに惹かれるのか理由が分からなかった。
気付いたら好きで、気付いたらどうしようもないくらいに依存していた。
吉沢が居なければ耐えられないって本気で思っていたし、吉沢が居ない世界は有り得なかった。
だけど世界は残酷で、吉沢が居なくても地球は回る。
教室で一人ポツンと静かに座る吉沢を見る度に、世界は残酷だと思った。
金井君には北原君が居て、俺には手島やコニタン、クラスメートの皆が居る。
例えそれが上辺だけで作った関係でも、俺にとっては救いようのある世界だった。
なのに吉沢には何もない。
昔はあんなにキラキラと輝いて見えた特別な人が、たった一人でそこに居る。
世界は残酷だ。
吉沢が不幸であればあるほど幸せだと感じる自分も、その残酷な世界に組み込まれていた。
「後で行くか…。」
「どこに?」
手島の独り言に質問する。
しばらく間が空いて、返答してくれた。
「吉沢のとこ…。」
「なんで?」
「ダチだし…。」
「俺は?」
「お前もダチだけど…何か不満か?」
「うん、吉沢と仲良くしないでよ。手島が居なくなったら俺が一人になる…。」
我が儘なのは分かってる。
だけど不安だった。
吉沢と手島は元々親友で仲が良い。
だから俺の知らない所で二人が一緒に居るのは耐えられなかった。
「俺はお前のもんじゃねぇんだよ。そんな我が儘通用すると思うな。」
「……けど、」
「けども何もねぇ。そこまで依存するなら縁切るぞ。」
「っ……!」
俺は焦って手島の目を見た。
手島が居なくなったら困る。
だって手島が居るから頑張って学校に行けたんだ。
もし縁なんて切られたら、それこそ学校を辞めたくなってしまう。
「冗談だ。泣くなよ?」
目が合うとニヤリと笑われる。
そんな冗談は止めてくれと本気で思った。
「吉沢に会って何話すの?」
二人が会う事に耐える代わりに、せめて会話の内容くらいは把握しておきたかった。
「さぁな。」
「何か話したい事あるんじゃないの?」
「ねぇよ別に…。」
「じゃあ何で?」
「ハァ…ダチと会うのにいちいち理由なんてねぇよ。」
手島は呆れたように溜め息を吐いた。
そうなのかな…友達ってそんなもんかな。
色々と麻痺していて俺にはよく分からない。
「それよりお前はどうすんだよ。」
「何を…?」
「告白。ちゃんとしないのか?」
何を今更って思った。
もう振られているのに告白なんて馬鹿のする事だ。
「馬鹿なこと言うなよ。俺はもう吉沢とは話さない。」
「でも好きなんだろ?もうすぐ卒業だし、後悔する前に言っとけよ。どうせ別れるんだからタイミング良いだろ。」
「簡単に言いすぎ…。」
「こんな終わり方じゃ吉沢も可哀想だ。」
「…。」
世界が残酷である事をきっと手島は知っている。
俺にとってそれは幸せに値するけど、手島にとっては見てられない現実なんだろう。
手島は優しい。
俺と一緒に居ても吉沢の心配だってしっかりしている。
なのに俺が最低な事を言ったって責めたりはしなかった。
「小西の言葉を借りるなら…平村は天然な天使なんだろ?だったら最後まで嘘突き通してやれよ。」
「まさか…笑って話し掛けろって…?」
「別に笑わなくても良い…ただ好きだって言ってやればアイツ単純だから喜ぶんじゃねーの。」
「フッ…何それ。そんなに単純じゃないでしょー。」
想像して笑った。
でもやっぱり俺では吉沢を幸せになんて出来ない。
だって吉沢は俺じゃなくて金井君を好きだから。
「嬉しいだろうよ…。今絶望的な状況だから余計にな。」
「酷い話…。しかもそれかなり計画的じゃね?」
「別に良いだろ。計画的だろーが救われるもんさえあれば。これ以上の不幸はないんだし、最後ぐらい幸せな夢見させてやれ。」
手島はニヒルに笑って俺を見た。
俺の気持ちはグラグラと揺れる。
吉沢の不幸をとるか、幸せをとるか…。
こんな俺でも吉沢を幸せに出来るのか…。
よく分からなくて、だけど手島の優しさだけは強く感じていた。
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