08

年が明けて僕らの卒業に現実味が帯びてきた。

だけど平村君はまだ学校に来ない。

みんな心配していて、それでも彼は来なかった。


「平村大丈夫かな?こんな時期に休むとか…病気でもしたか。」

「さぁ…?」


北原君も心配している。

僕らは平村君の席を見た。

彼が居ない間に教室の雰囲気は随分と変わったように思う。

平村君達三人が一緒に居なくなった分を埋めるように、クラス全体が今まで絡まなかったグループも巻き込んで仲良くしていた。

卒業が近付けば近付く程に皆の距離が近付く。

それと比例するように吉沢君と手島君は孤立していって、近付き難い雰囲気を放っていた。

髪の毛の色が黒くなった手島君は、毎日休み時間まで勉強している。

吉沢君は携帯をイジったり寝たりと相変わらずで…。

何より…僕を見なくなった。

挨拶もなくなった。

僕も辛くて見つめるのを止めた。

僕らは友達以下の関係に戻った。


「あいつら心配だな…。」

「うん。」

「声かけるか?」

「僕はいい…。」

「……。」


僕は最近暗いと思う。

それが北原君にはバレていて、だけど何も聞かれなかった。

最初は何度も心配されたけど、僕が何も言わないから諦めてくれた。

北原君には悪いと思う。

でも平村君の事を無闇に話したくなかった。






「金井、ちょっと良いか?」


移動教室の合間に手島君に声をかけられた。

ドキッとしたけど近くに吉沢君は居ない。

少し安心した。


「放課後俺の部屋にきて欲しい。平村の2つ隣だしすぐ分かる。」

「…分かった。」


真面目な様子にドキドキする。

見当が付いているようで付いていない。

僕は放課後までそれが気になって、ずっと落ち着かなかった。




放課後、僕はドキドキしながら手島君の部屋へ向かった。


「お邪魔します…。」


小さく挨拶をして中へ入る。

手島に着いて行くと、部屋には人の気配があった。


「なんで…手島、どういうこと?」


一瞬誰だか分からなかったその正体は、随分と見ていなかった平村君だった。

久し振りに見た平村君は外見がかなり変わっていて、赤髪が黒い短髪になっていた。


「手島…、」

「言いたい事あるんだろ?直接本人に言え。毎日愚痴られる俺の身になれよ。」


平村君は手島君を恨めしそうに睨んで、今度は不満げな顔で僕を見た。

僕に言いたいことがあるんだ…。

愚痴を零すくらい嫌いなのかな。

そんな事を面と向かって言われたら悲しくて病みそうだ。


「吉沢と付き合わなかったって聞いた。」

「うん…。」

「俺の為とか思ってんの?」


冷たい目で睨まれる。

その目を見ていたくなくて視線だけ逸らした。


「思ってないよ…。」

「じゃあ付き合えば?もし俺に気遣ってんだったら気分悪いし。て言うかどっちみち俺だけ幸せになれないし?」


平村君は鼻で笑って俯いた。

そんな顔をさせたい訳じゃないのに…。

僕には何も出来ない。

何も言えない。


「誰かの為とか押し付けがましいっていい加減気付けば?君が何したって俺にとっては目障りなんだし。」

「……。」

「だから綺麗事なんて嫌いなんだよ。」


ショックで何も言えなかった。

やっぱり平村君にとって僕は必要のない存在なんだ。

一度でも友達だって、分かり合えるかもって思ったけど…本当は無理だった。

どれだけ頑張っても無駄だって分かった。


「金井…ごめんな。」


手島君が背中をポンポンと優しく撫でてくれる。

そうだよ…。

僕が傷付くって分かってて手島君はここに連れてきたんだ。

もうよく分かんないけど、なにもかも酷いよ…。

知らない方が幸せな事だってあるのに。

僕は無言のまま帰ろうと後ろを向いた。


「金井君、また逃げんの?吉沢からも俺からも…話し合いたいとか言ってた癖にホント卑怯。」

「……。」

「何か言い返せば?」

「だって、前にも言ったよね?揉め事は嫌だって…。」




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