07
「平村。」
「っ…、」
悲しくて少し涙が出てきた時、後ろに居た吉沢が俺に抱き付いて頭を撫でてくれた。
そして横に居た手島はガンッと目の前の扉に蹴りを入れ、勢い良く中へ入っていった。
「テメェら邪魔。」
「っ!?」
それに続いて吉沢が俺の手を握りながら教室へ入っていく。
突然の出来事に動揺しながらも流されるようについて行った。
「どんな奴かと思えば対した事ねぇじゃん。モブばっかかよ。外見も中身も平村とは比べるまでもねぇな。」
「っ……、」
「それに俺らは痛い事すんのに力入れてんだよ。赤髪も似合わねぇような連中が、自分の面見てから言え。」
中に居た生徒達は顔面を蒼白にさせて出て行った。
ドキドキとする心臓を押さえて吉沢を見る。
吉沢はニヤリと笑って「ざまぁみろ。」と言った。
「マジ気にすんなよ。」
「そうそう。あんなモブ野郎の言う事なんて僻みでしかねぇしなー。」
「…ありがと、」
俺は嬉しくて、入る時に握られた吉沢の手をギュッと握り返した。
辛い時に助けてくれる存在が出来た事が信じられないくらい嬉しかった。
「また何かあったら俺らが守ってやるよ。」
その日を境に、拍車がかかったように俺は二人に依存していった。
二人が居ないと不安で、二人について知らない事があれば許せなかった。
ただこんな醜い自分は知られたくなくて、自分自身の本音だけは隠し続けた。
綺麗な存在で居たかったんだ。
吉沢が何時までも守りたいと思ってくれる存在で居たかった。
だから天然と呼ばれるように馬鹿のフリを始めた。
勉強は相変わらず続けていたけど、知識意外の部分では馬鹿なフリをして過ごした。
「大丈夫か?」
「……。」
風呂場に閉じこもる俺に手島から声がかかる。
本当は知ってた。
手島が俺の嘘に気が付いてるって分かっていた。
でも手島は優しいから…いつも何も言わずに一緒に居てくれた。
だけどもう駄目になった。
吉沢と金井君は晴れて恋人に。
そして俺は吉沢に振られて嫌われて終わりなんだ…。
鏡に赤い髪の自分が移る。
酷い形相をしていた。
「馬鹿らしい…。」
なんの為に髪の毛を赤くしていたのか…とても馬鹿らしくなった。
吉沢の選んでくれた赤で三年間を過ごし、吉沢に気にとめてもらう為にキャラを作って…。
なのに結局、何も残らなかった。
俺には勉強以外の取り柄がない。
何もない。
「はは……、」
この三年間で上手くなった笑顔も作れないほど惨めで仕方がなかった。
笑おうと無理やり口角を上げれば涙が出てくる。
あぁもう駄目なんだなって思った。
「……。」
どれくらいそうしていただろう。
気が付けば時間も分からないくらいそこに居た。
フと扉を見る。
随分時間が経ったはずなのに、そこには未だに1人のシルエットがあった。
「てしま…、」
「どうした…?」
「かえんないの?」
泣きすぎて目も鼻も頭も痛い。
この痛みで気持ちが紛れれば良いのに…。
そんな簡単な話ではない。
「一人は寂しいだろ?」
「っ……、」
たったの一言で、俺は張り裂けそうなほど胸が痛くなった。
さみしいよ…さみしいよ。
だって俺は色んなものを失った。
この三年間を後悔して、忘れてしまいたいくらい大きなものを失った。
俺はまた泣いてしまった。
だけど手島は何も言わない。
何も言わないけど…ただそこにいてくれた。
ずっとずっとそこに居た。
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