06
(side:平村)
中学へ入学したばかりの頃、俺には友達が居なかった。
チビで根暗で勉強だけが取り柄のガリ勉男。
それが俺に対する周りの印象だった。
自覚はあった、俺には勉強以外の取り柄がないって。
自分に自信がなくていつも俯いて歩いてた。
どれだけ身長が伸びても俯くことだけは変わらなかった。
そんな当時の俺にとって吉沢と手島の二人は憧れの存在だった。
高校一年生、俺はいわゆる高校生デビューをした。
弄ったことのない眉毛を整えて髪の毛も切った。
「かっけぇ…。」
「え…?」
「平村だよな?そんな顔してたんだ。その髪型スゲェ似合ってるよ。」
あの吉沢が俺にそう言った。
俺は突然の出来事に戸惑って、曖昧に笑って感謝の言葉を言った。
本当は嬉しかったけど、嬉しいなんて思える余裕すらなかった。
「突然悪いな。でも吉沢が言ったことマジだから。」
「っ…ありがとう、」
手島が気を使ってそう言ってくれて、そこで初めて嬉しいと言う感情に気が付いた。
これが俺達三人の最初の会話だった。
「俺は無難にアッシュだな。」
「吉沢なら何でも似合いそ〜。俺は何がいーかなぁ?」
「ん〜これは?」
「え!俺にはこんなの似合わないよ!?」
高校一年の夏、手島が髪の毛を金に抜いた。
それに触発された吉沢が、俺達も髪の毛で遊ぼうって言い出した。
「絶対似合うって。それに三人共別の色にするならやっぱ赤だろ?俺のアッシュは譲らねー。」
「え〜そんな事言って派手に冒険する自信ないだけでしょ〜。」
「うっせ。俺は手島の馬鹿とは違うんだよ。」
そう言って俺に赤色を勧めた。
結局折れた俺は、吉沢の選んだ赤色に髪の毛を染めた。
「やっぱり似合ってるじゃん!」
「ありがとう…けど吉沢、あんまり染まってなくない〜?」
「まぁ良いだろ…。それより赤色良いじゃん、気に入った。」
「冒険心ないなぁー。」
「うっせ。テメェらが馬鹿なんだよ。」
吉沢は何故か自分の髪より俺の髪の毛を見て満足そうにしていた。
その時の笑顔が余りにも嬉しそうで…
俺は初めて染めた髪の毛の色を好きになった。
「相変わらず赤いなぁ〜?」
「似合わない?」
「いーや。流石は俺が選んだ色だわ。」
それから三年間ずっと同じ色に染め続けた。
結局、吉沢は染め直すのが面倒だと言ってすぐに止めてしまったけど、俺は変わらず赤色をキープし続けた。
自分ではケアが難しいから美容院に通って、馬鹿みたいだけどこの三年間で一番にお金をかけたのは髪の毛だった。
それくらい大切だったし、この色さえあれば自信だってついていった。
「平村最近調子乗ってね?」
「は?誰それ。」
「俺も知らねーわ。」
「中学ん時はがり勉だった奴だよ。最近吉沢達と居る赤髪のさ…。」
「あぁ、アイツか。つーか中学から居たんだ。」
掃除当番で理科室に入ろうとした時、誰かが自分の噂話をしていた。
俺達は扉の前で立ち止まって聞き入る。
怖くて泣きそうになった。
「スゲェ暗かったのに高校生デビューとかしちゃってんの。しかも赤髪とか痛くね?」
「分かる分かる。そう言う痛い奴ってたまに居るよなー。」
「っ……、」
惨めだった。
吉沢が選んでくれた赤色が恥ずかしくなった。
俺はまた俯いて後悔する。
こんな事なら大人しくしておくべきだったって。
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