05
「もう帰ってくれないかな。君らの顔、もう見たくない。」
平村君はお風呂場に入ってしまった。
僕らは言葉も出ずに立ち尽くす。
吉沢君は見たことがないくらい無表情で少し怖かった。
「お前ら帰れ。居てもしゃーねぇし…な?」
「……。」
僕も吉沢君も返事はしなかった。
それくらい衝撃的でショックだった。
帰り道、僕はどうすれば良いのか分からなくなる。
吉沢君が好き。
この気持ちに変わりはない。
でも平村君はもっともっと苦しんでいる。
もうすぐ卒業なのに…僕が彼の幸せを、一緒に居られるだけで良いって幸せを壊したんだ。
「金井の部屋行って良いか…?」
「うん…。」
吉沢君はとても暗くて落ち込んでいた。
仕方がないと思う。
ずっと親友だと思っていた人に告白されたんだ。
仮に僕が北原君に告白されたなら…急に北原君が怖くなりそうだ。
どうして良いのか分からなくて…。
「どうするの…?」
「分からない、」
分かるはずなんてないのに聞いた。
暫く二人ともだんまりだった。
せっかく両想いだって分かったけど素直に喜べない。
むしろ心が痛くてどうしようもなかった。
「もう止めようよ。」
「金井…?」
「平村君が苦しむくらいなら…僕は今まで通りの方が良い。」
「…それって付き合わないってことか?」
「うん……。」
僕は選択した。
こんな状況で自分だけが幸せになるなんて無理だ、出来ない。
今なら平村君の気持ちが分かる。
だからこそこんな気持ちで卒業はしたくなかった。
「なんでアイツの為に俺らが気使うんだよ…可笑しいだろ?」
「…僕は伝えられただけで充分だよ、」
「そんなの…綺麗事だな。俺は金井と一緒に居たい。」
「綺麗事でも嫌なんだ。だから吉沢君とは付き合えない…ごめんなさい。」
吉沢君は舌打ちした。
怒るのも無理はない。
だって僕らが付き合わないからといって平村君が幸せになる訳でもないし、そんな簡単な事じゃないって理解してる。
それでも距離をおきたかった。
「金井は…俺より平村を取るってことか…?」
「分からない、ごめんなさい…。」
「俺のこと好きなんだろ…?」
「ごめんなさい…、」
吉沢君は頭をかきむしって舌打ちした。
苛ついているのが分かる。
「俺は金井が好きだ。」
「っ…ごめんなさい。」
「付き合いたい…。」
「ごめんなさい!」
僕は頭を下げた。
もう無理だった。
こんなドロドロした感情は捨ててしまいたい。
忘れたかった。
全部忘れたかった。
「……お前のそういうところ、」
「……、」
「嫌いだ。」
低い声でそう言って、吉沢君は部屋から出て行った。
そういうところが嫌いって今までに何度言われただろう?
僕はようやく理解して泣いてしまった。
吉沢君が好き。
それだけは変わらない。
きっと僕は選択を間違えたけど…ただ逃げ出したかった。
分からないものから逃げたかった。
次の日、平村君は学校に来なかった。
次の日も次の日も…ずっと来なかった。
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