11枚目

勉強が手につかない。

だからと言って寝れそうにもなくて‥。

明日が休みで本当に良かったと、今日何度目か分からない溜め息を吐いた。


「ハァ…疲れたなぁ…なんか飲もうかなぁ…、」


何か甘いものでも飲もうとペンを置いて冷蔵庫へ向かう。


「……はぁ、」


しかし、こういう時に限ってお目当てのジュースが見当たらず、また溜め息を吐いた。

ないものはしょうがない。

でも既に一度口の中がジュースを欲してしまった。


「…買いだ…、」


就寝時間はとっくに過ぎている。

けど、飲みたいものは仕方がない。

僕は財布をポケットに突っ込んで、気分転換も兼ねて部屋を出た。








「ぁッ…。」

「っ…、」


思わず声が出た先には…僕と同じく、驚いた表情の吉沢君が自動販売機の前で佇んでいた。

偶然出くわした事に驚きのあまり心臓が高鳴る。

ドキドキと心臓が煩くなった。


「っ…」


そんな緊張も虚しく、吉沢君の視線が驚くほど早く逸らされて心がチクリと傷む。



そっか…。

話しちゃ、駄目なんだよね…。



そう考え、一度辺りを見渡した。

どうやら吉沢君は一人らしい。

平村君の姿が見当たらないだけで凄く安心してしまった。


「…吉沢君、こんばんは。」

「……おう。」

「こんな時間に…偶然だね。今1人?何買うの?」


─ ピッ…ドン、


僕の質問に答える変わりに、吉沢君はホットコーヒーのボタンを押した。

平村君が居ないなら…少しだけ話せる。


「二つってことは…誰かのぶん?」

「まぁ、」

「もしかして平村君?だったら…僕と会った事は言わないで…ね。」


お金を入れながら話す。

緊張して早口になるけど…割と普通に話せている気がする。


「なんで。」

「…平村君とは、あまり気が合わないみたいで…僕の名前を出して不快な気分にさせたら悪いかなって。」

「…金井も、」

「え?」

「金井も、嫌なら嫌って言えよ。気持ち悪いなら気持ち悪いって…。でも、勘違いなんだ…。だから、嫌いにはならないでくれ。」


吉沢君?

何の話だろうと吉沢君を見ると、手元にある飲み物を見つめていた。

それって…平村君のこと?


「嫌いじゃ…ないよ。少し苦手なだけ。」

「ッそっか、ごめん…俺っ…」

「吉沢君は、悪くないよ…。僕が悪いんだ、僕が人を不愉快な気分にさせる人間だから…」

「そんな事ないって、俺が…紛らわしい事してたのが悪い。…ごめんな、もう誤解させるような事しないから…これからも友達で居てくれないか。」

「吉沢君…、」


吉沢君は…平村君の事を本当に大切だと思ってるんだ。

あの時は信じがたかったけど、平村君の怖い所を知っているのは本当みたい。

だから勘違いしないでくれって平村君を庇って…。


「分かった。」

「……。」

「僕、平村君の事、正直今でも苦手だけど…克服出来るように頑張るね。」


吉沢君に頼まれたら頑張るしかない。

怖いけど…あの時のやり取りは実は冗談だったって可能性も捨てきれないし。


「………は?」

「…?どうしたの?」


今まで手元のコーヒーを見つめていた吉沢君がようやくこっちを見た。

久し振りに目が合う。


「金井…平村が苦手なのか?」

「え?それ知ってて友達で居て欲しいって…」

「違う違う!俺が言ってんのは俺のこと!俺の事嫌わないで友達で居てくれって!」

「っ…何それ!僕が吉沢君の事嫌いになるなんてあり得ないよ!それこそ勘違い!」

「…え?いや、でも、俺の視線とか色々…嫌で、引いてんだろ…?」


待って、かなりこんがらがってきた。

嫌い?引く?

あり得ない。


「引いてないよ。むしろ嬉しいと言うか、話す切っ掛けが出来てラッキーと言うか…、」

「…嘘じゃないよな。」

「嘘じゃないよ。僕、吉沢君と仲良くしたいもん。」

「ッ…マジで?嘘じゃない?俺信じて良い?これからも話しかけて良い?」


そこでハッとした。

どうしよう…。

吉沢君の申し出はこの上なく嬉しい。

だけど…平村君の行動が怖い。

下手をすれば僕が吉沢君に嫌われる。


「平村君の居ない所でなら。」

「…そんなにアイツが苦手か?意外だな…、」

「僕じゃなくて平村君が僕を嫌いなんだよ。きっと。」

「…いや、有り得ないだろ。」

「…とにかく!吉沢君とは仲良くしたいし気持ちも嬉しいけど…平村君の居る所では話せないし、僕の話題も出さないで欲しい!絶対に!」


相当我が儘を言っている自覚はある。

吉沢君は純粋に僕と友達になりたいって言ってくれているのに…。

僕は自分の欲求を隠しながらこの関係を続けようとしているんだから。

もしかすると平村君は、吉沢君に不快な思いをさせない為に、わざと僕を遠ざけるような発言をしたのかもしれないのに…。



それでも僕はこのチャンスを逃したくなかった。

許されるなら…少しでも一緒に居たい。

吉沢君と、話していたい…。


「吉沢君の大事な友達なのに…本当にごめんなさい。ただ…本当に駄目で…。」


吉沢君は暫く考える素振りをした。

それから「分かった。」と僕に微笑んでくれた。


嬉しい。

でも卑怯な事してしまった。

平村君にも吉沢君にもこれから嘘を吐いていくことになる。

心がツキリと傷んで、でも嬉しくて…やっぱり自己嫌悪に陥った。




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