０８枚目
「いやーだってさー、」
「なに…？」
「吉沢の事好きだろ。」
心臓を鷲掴みにされた気分だった。
誰にも告げた事のない想い。
それを言い当てれた。
「何でそう思うの…。」
「今さ、顔色も声の調子も変わった。」
「勘違いじゃないかな。」
「そう？まぁ良いけど。吉沢男から好かれるの嫌らしいし。こんな事知られたら大変だ。」
元々吉沢君に伝える気なんて無いのに…。
もし言われてしまったら最後の最後に傷ついてしまう。
今の平村君を見ていたら気軽に言いかねない。
「本当に勘違いなんだ。吉沢君に変な事言わないで‥。」
「じゃあ、」
「っ……」
いきなり手を掴まれて歩みを止めた。
ゆっくり視線を上げて平村君の顔を見ると、真剣な表情で僕を見つめていた。
「俺の言うこと聞く？」
「っ……例えば、」
脅されてる…。
でも、言うことを聞かないと吉沢君に嫌われる…。
「もう吉沢とは話さないで。」
「ぇ…。」
「吉沢と話さない。吉沢とは目も合わせない。吉沢への気持ちも忘れる。そうしてくれるなら何も言わない。」
「な、んで…、」
どうしてそこまで吉沢君と関わらない事を望んでいるのか…僕には理解できなかった。
何故、疑問しか浮かばない。
「不愉快なんだよ。」
「っ……。」
「だからさ、俺が代わりに仲良くしてやるから……吉沢見んのはもう終わり。これからは俺と仲良くして…な？」
諭すように言われて言葉を無くす。
僕に選択肢がない。
「大丈夫。金井君が言う通りにしてくれたらこれからは優しくするよ？何だったらニックネームもつけてあげよっか。前に金井君だけつけなかったら寂しそうな顔したよね。」
「要らないっ…そんな事っ…」
以前、体育祭の準備中に自分だけ金井君といつも通りに言われてショックを受けたのは確かだ。
でも今更じゃないか。
なにより、僕がショックを受けた事に気付いていたなんて…。
平村君は僕が思っていた以上にずっと人を見ていて、確信をついてくる。
知りたくなかった、そんなこと。
「そんな嫌がらないでよ。俺ショックだなー。」
「こんなっ…こんな平村君の姿知ったら吉沢君もショックだと思う！」
「え？そう？でも俺、吉沢の前でもこんな感じだからなぁー。…脅せなくて残念？」
「っ…平村君に脅された事も好きだなんて嘘だって事も本人に言うよ！」
「本当に？言っちゃう？吉沢の目見て言える？」
言葉に詰まった。
吉沢君に向かってそんな事言えない。
だって、好きが嘘なんて嘘だから…。
「北原君、良い人だよね。」
「…！」
「気が合いそう。仲良くなるのも時間の問題かな？」
「今度は…何考えてるの？」
「んー？好きな人には嫌われてー、唯一の友達も居なくなったらさー。そしたら誰かさんは言う事聞くのかなー、って。」
恐ろしい事ばかりだ。
吉沢君だけでなく、北原君まで奪おうなんて…。
だけど…
「北原君は僕の事を信じてくれる。」
「…気持ちは分かった。俺の事嫌い？」
「…今の会話で好きになれると思う？」
「冷たいな。二重人格みたい。」
「…平村君がね。」
「言うねー。」
ハッと鼻で笑われた。
やっぱり…いつもの平村君は嘘だったんだ。
これが本当の彼。
「金井君。一つ予言をしようか。」
「……なに。」
「これから君は俺の事ばかり考えるようになる。吉沢の事を考える隙なんて与えさせない。」
そう言って強く腕を握られた。
顔を歪めた瞬間、解かれる。
「ごめんねー？痛かった？俺、金井君の泣きそうな顔見たくないのに…」
「…そんな演技しなくて良いよ。」
「帰ろっかー。あ、部屋まで送るね。」
「…勝手にどうぞ。」
言っても無駄だと思った。
きっと嫌でも着いてくる。
「ありがとー。」
ニコニコ隣で笑う平村君はまるで別人だった。
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