06
つくづくと思う。
俺はどうやら馬鹿らしい。
『椿と喧嘩でもした?』
『してないけど。何で?』
『まぁ、何となく?今日は椿の方1回も見てなかったなって。』
『あぁ…距離感の勉強中。』
『マジか。でも一応椿に説明しといた方が良いと思う。』
『分かった。』
と言うのが夢野と俺が交わした数分前のメールだ。
この時はまだ、夢野がまたお節介を焼いているのだと軽く捉えていた。
だからこれが後の出来事に深く関係してくるなど考えても居なかった。
「僕らいつ喧嘩したかな?」
「いいえ…。」
「後さ、会長達に僕の様子をいちいち聞いてたんだって?そう言う事辞めてくれないかな?」
「すまなかった…。」
俺は馬鹿だ。
めちゃくちゃ馬鹿だ。
今までのツケが今日という日に回ってきたようで、俺は何故だか怒り心頭な椿に責め立てられていた。
「謝ってどうにかなるもんじゃないでしょ?人は変われないし、きっとアンタは同じ事を繰り返す。絶対するだろうね。」
「……。」
一回状況を整理したい。
何故椿は怒ってる?
何故?
「話聞いてる!?なんか言えば!」
「俺が悪かった…。」
「謝る前にもうしませんでしょ!要に冷やかされるなんて最悪。夢野にだって突っ込まれるし…もしこれ以上僕の事で絡んでいったら絶縁だ!」
それは死刑宣告だった。
どこか絶望的な気持ちになりながら、鳴海要の名を聞いて一つだけ思い当たることを見つける。
むしろそれぐらいしか思い当たる節がなかった。
「鳴海の件はすまなかった…。それと夢野の件に関しては夢野の勘違いで俺は何もしていない。ただ普通にしていただけなんだが…。」
「は?あれで普通?夢野はアンタの勘違いだって言ってたけど?」
心底嫌そうな勢いで責め立てられる。
何が何だか訳が分からなくなってきた。
これでは椿との仲が再び拗れかねない。
それだけは困る。
「待ってくれ、一度整理しよう。夢野にも気持ちを話すように言われたんだ…聞いてくれるか?」
「…わかった、話せば。」
改まって姿勢を正せば、椿も少し緊張気味に姿勢を正した。
俺は今の気持ちを脳内で整理しながら、少し俯いて話し出した。
「俺は正直嫉妬してる。椿が会う人話す人みんなが憎い。」
「…まさか。だから会長達を睨んでたって…?」
「すまん。だからこれからは普通に過ごそうと昨日の夜に決めた。そうしたら夢野が喧嘩したんだと勘違いしたらしくてな…。」
椿はようやく納得したような表情を浮かべてくれた。
理解してくれたのならなりよりだ。
それよりも、良くしようと考え行動しただけでこうなるものか。
普通に戻そうとして椿の話題を避けていただけなのに、逆に周りが違和感を持つなんて。
つくづく俺はイカレてる。
なんてややこしい行き違いなんだろう。
「なんで急に普通にしようって?」
「それは…。」
「ゆっくりでも話すんじゃなかった?」
「聞いたら引くぞ。」
「今更。」
互いに苦笑いが出る。
もう笑うしかなかった。
「他の連中から椿の名前を聞くのさえ嫌になった。」
本当に酷い答えだった。
椿は引いているような、何故そこまでと疑問に思っているような微妙な顔をした。
きっとどちらも正解だろう。
正直俺自身でさえも、何故ここまで椿に執着出来るのか不思議なのだから。
「アンタ…俺に執着しすぎ。」
「まぁ…そうだな。」
「何でそこまで?」
「分からん…。ただ意味もなく好きなんだ。説明出来ない。」
問われても理由なんてない。
気まずくなって俺は俯いて答えた。
「でも、椿が望むのなら距離を置こうと思う…もう生徒会の連中にも夢野にも誰にも話を聞いたりしない……」
「……。」
本当は監視していないと気が気じゃない。
椿は綺麗だ。
とても強がりで、努力家で、そんな椿を見ていると心配にもなるし側で支えていたくもなる。
出来ることならばいつまでも見守って居たいが…。
この気持ちが、行動が、椿にとって煩わしいものだとすれば距離を置く他ない。
俺は椿が大切なんだ。
「僕のことは僕に聞けばいい。」
「ぇ…、」
「回りくどいのは嫌いだ。だから僕に聞けばいいだろ。アンタは本当に馬鹿だな。」
椿はツンと拗ねたように唇を尖らせて言った。
まさかそんな風に言ってくれるとは思っていなかった俺は、あまりの嬉しさに感極まってしまった。
「つばき……ありがとう…。」
自分でも聞いたことがないような甘い声が出て、俺は本当にどこまでもこの子が好きだなぁと思った。
そんな自分に思わず笑ってしまう。
すると椿が「アンタの為じゃない。」とぶっきらぼうに言った。
つくづく思う。
俺は馬鹿みたいに、誰よりもこの子が好きだと。
そして少しでも長く、椿と共に居たいのだと…。
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