04
「夢野お邪魔するよ。」
「夢野夢野夢野!」
「分かった分かった、イテェな!」
席に付けばクラスメートの高田が興奮気味に声を上げて、夢野の腕を何度も叩いた。
一瞬驚いたけど、まぁこんな奴なのだろうと注文したご飯を食べ始めた。
「椿ってば珍しー。」
「そう?」
「うんうん。あ、そう言えば椿…また柚希と喧嘩した?」
「は?だからしてないって…何でそんな話になってるわけ?」
要だけならず夢野にまで言われて頭を抱えたくなった。
喧嘩したかどうかなんて僕が聞きたいよ…。
本当に意味不明。
「あーじゃあまた柚希の勘違いかな…。話しとくわ。」
「僕怒ってないから…むしろウジウジされた方が嫌だから。言っといて。」
「うぃ。」
これは夢野に任せるのが一番早いだろうと全てを押し付けた。
あー、面倒くさいなぁ…。
ユズの考えている事なんて僕には分からない。
僕の周りはみんな分かりやすいのに、ユズほど分かりづらい人間は居なかった。
「あ、クララが立った。」
何だか苛々してきて黙々とご飯を食べ進めていたら、唐突に高田がそう言った。
「クララって?」
「ほら。」
「あらまー。」
高田の短い言葉で夢野は理解したらしい。
二人の視線を追っていくと例の要親衛隊が集まっている席辺りを見ていた。
「やっぱり偶然だったか。天野って本当に分からんよな。」
「天野君…が何?」
「あぁ…松坂達と食事するなんてレアだから二人で観察してたんだよ。でも結局1人で出て行ったし、ただの成り行きって線が強いな。」
夢野の説明を聞いてクララの正体が天野彼方だと分かった所で、僕はもう一度親衛隊の方へ視線を向けた。
確かにアンチ天野派と呼ばれる連中の代表格である松坂や真木とわざわざ食事を採るなんて可笑しい。
たまたまなのか、それともまた何か良からぬ事を企んで居るのか…考えるだけで疑わしかった。
「椿、眉間に皺寄ってる。何か問題でも?」
「あいつら…何か企んでるような気がする。」
「えー?それはないって!なんせこの間の一件でアンチ天野派の勢力はグンと下がったし、前までは会話でさえままならなかったのに今日なんて食事してたし…。これは絶対に良い兆候だよ。」
「へぇ…。」
夢野の言う予感は昔からよく当たるのでとりあえず納得した風を装った。
それでも僕の天野に対する疑惑は晴れない。
別に話さない訳でもないし、面と向かって悪く言ったこともないけど、心を開く気は毛頭なかった。
それくらい天野とは心の距離を置いている。
「ほんと椿は天野が嫌いだよなぁ。」
「え?泉川君ってそうなんだ?」
「いや、別に嫌いな訳じゃなくて…普通に苦手なだけかな…。と言うか夢野の方は天野君のこと好きすぎ。どこら辺が言いわけ?」
僕は理解できないという感情を隠さずに引いた目で夢野を見た。
だってあの天野だよ。
確かに顔は綺麗で礼儀も正しいけど、何を考えているか分からなくて気持ち悪いじゃないか。
そんな彼を、人を見る目がある夢野が気にかけているなんて信じられなかった。
「天野は可愛いよ。」
「は?どこが?」
「考え読めない所が。ギャップがあって面白いじゃん。」
その返答は僕が天野を嫌っている一番の理由だった。
何故考えが読めないと嫌なのか…それは僕が幼い頃より、人の顔色を窺って行動するのが癖だった所為だ。
だから天野のように曖昧な笑顔ばかり浮かべて多くを語らないタイプが凄く苦手だった。
「それって天野君が腹黒いってこと?」
「んー、それは分からないな…俺もよく知らないし…。でもそこが良いよなぁ、ミステリアスって感じで。男は皆暴きたいものなんだよ。」
「じっちゃんの名にかけて…?」
「高田…お前は黙って食ってろ。」
「はーい。」
半笑いで変な事を言い出した高田を夢野が楽しそうに宥める。
このやり取りを見て似た者同士だなぁと思った。
高田は話す時、ほとんどの場合で顔をグッと近付けている。
そして夢野も顔を近付けて話す癖があるから、ことわざ通り類は友を呼ぶものだと思った。
ただ夢野の場合はわざとらしい事の方が多いから質が悪いけれど。
だってその証拠にそれが通用しない僕や高田なんかには顔を近づけたりしない。
夢野も案外腹黒くて困る。
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