05

「っ…び、びびったー!」

「……、」

「彼方…?」


色々考え過ぎて眠気が遠のき、真夜中に何か飲み物を買いに出た所で彼方と出くわした。

が、その出で立ちが余りにも怖くて普通に叫んでしまった。

誰も居ないと思っていた自動販売機のコーナーの隙間で静かに座り込んでいたのだ。


「ど、どした?」


ドッドッドッと心臓の音がうるさいが、一先ず何故こんな夜更けにそこで座っているのか知りたい。


「田代…祥平…?」


不思議そうな顔で見つめられるが、こっちこそ不思議でならない。


「あ、うん…」

「………いた、」

「え?」

「お腹すいた…しにそう…」


そう言ってグッタリと自販機にもたれ掛かるので、急いでおデコに手を添えた。

熱…はないようだが、数日前には高熱を出していたのだとしたら、まともにご飯を食べていなかった可能性もある。

とりあえず自販機でスポーツドリンクを買って自分の部屋まで連れて行った。


「ごめん。ご飯とか普段炊かないから、うどんしか無かったわ…。あ、今更だけど卵食べれるか?ネギもイケるか?」

「ありがとう…大丈夫…。」


叔父である理事長の計らいで一人部屋とは言え、なるべく静かにキッチンを使い、自室に通した彼方に食事を用意した。

と言っても茹でただけだけど。


「美味しい…、生き返る…生きてて良かった…」

「それは良かった。…にしても、空腹で死ななくて良かったな。」


噛みしめるように真顔でうどんをすする顔を見て思わず笑ってしまう。

すると彼方は、うどんをすする動きは止めずにコチラを見つめてきた。


「本当に綺麗な顔ですね。」

「え?」


やば…!普通に顔出してた…!!

念のためフードは被っていたものの、前髪が邪魔で一人の時にはピンで留めていたのを忘れていた。

そうか…だから自販機で出会った時に不思議な顔されたんだ…。


「もしかして見ない方が良かったですか?」

「あー…まぁ良いや。ところで何であんな所に居たんだよ。」


以前に事情は話しているし、もう良いや。

それに、彼方は覚えてないだろうけど編入前に一度素顔を見られてるし、最近はこの学校の風潮を知った事もあって以前よりは警戒心も解けてきた気がする。

そんな事より…もしも空腹をジュースで紛らわそうとしたのなら人間的に結構問題だ。

彼方の食生活が本気で心配になった。


「部屋に何も無くて、友人を頼ろうにもこの時間だし…自販機のカップ麺を買おうとしたらよりによって故障中で、そもそもお金を持って出てくるのも忘れてて…アホみたいですよね。」

「何だそれ?不幸続きの冴えない主人公みたいな話じゃん。」

「そして絶望の最中、空腹の余りお腹が痛くなり座り込んでいた所を救世主の君が現れて救ってくれたんです。」


なるほど…大体繋がった。

確かにジュースの自販機は動いてたけど、隣のカップ麺の方は故障中の貼り紙があったな。

なんだか拍子抜けして、うどんのスープまで飲み干す彼方を見ながら溜め息を吐いた。

とりあえず食欲があって良かった。


「ご馳走さまです。お腹すきました。」

「いや、今食べ終わっただろ!暫くちゃんと食べれてなかったならこの位が丁度良いんじゃねーの?胃がビックリするって!」

「今日一日食べてなかっただけで昨日までは食べてました!うぅ…足りない…」


食べ終わった丼を両手で持ち上げて、キラキラした目で訴えかけられる。

うぅ…眩しい…彼方って食いしん坊キャラだったっけ?


「…サラダならある。」


渋々そう言うと、パッと嬉しそうに笑うので、根負けしてサラダを用意した。

美味しい美味しいと味わってパクパク食べる彼方を見ながら、また溜め息を吐く。

コイツ…遠慮がないな…と。

別に良いんだけどさ、結構図太いのな。


「ご馳走さまでした。」

「満足か?」

「余は満足じゃ。」

「なんか分からんけど殴って良い?」


ヘヘッと笑う彼方に、今度こそ大きい溜め息を吐いた。


「はぁ〜…元気そうで何より。」

「はい。田代君は命の恩人です。」

「大袈裟。」


除隊のことや、要との喧嘩、高熱を出したこと…数日前に聞いた様子とは打って変わり、元気そうに笑っていてホッとした。

ただ、色々と気になるが何処まで踏み込んで良いものか悩みどころだ。


「先ほど僕の額に手を当てた…と言う事は、数日前の件を聞いてますよね?」

「まぁ…軽くだけど。」


どう切り出そうかと悩んでいたら、彼方の方から話題を振ってくれて楽になった。

どうやら踏み込んで問題ないらしい。


「なんで除隊したんだ?」

「それは…シンプルに辞めたかったから、かな。会長と反りが合わないし、親衛隊って思ってたよりも楽しくなかった。」

「えっ…?あんなに揉めてるのに楽しい場所だって?」


すっごく真面目な顔で話しているが、その内容に少々呆れてしまう。

彼方は親衛隊に何を求めて入ったのだろう?


「まぁ、松坂君みたいに会長が好きで入った人達は楽しいだろうね。僕は…目立つステータスがあれば何でも良かったんだと思う。生徒会でも隊長でも、何でも良いから分かりやすく内申点が欲しかったんだよ。」


一言一言、自分で確認するように彼方は言った。


「要のこと、好きじゃないのか?」

「別に…好きでも嫌いでもない。流れで会長の隊に入っただけで、彼はただのクラスメートの一人だよ。それがこんなに揉めるとはね…。」


苦笑いする彼方を見て、何か内側から込み上げてくるものがあった。

それは、何でこんな意識もされてない奴を好きになったんだと言う要に対する怒りや、あれだけ分かりやすく意識してる要をただのクラスメートとしか思ってない彼方への怒り…。

そして、二人が両想いになる事がない可能性への期待を抱いて、喜んでしまっている自分への嫌悪感…。


「俺は…要のことが好きだ。」


ドロドロした気持ちを抱えながら、深く考えずに言ってしまった。


「親衛隊とかそんな肩書きは要らない…。ただ、一緒に居たい。彼方…もし、協力して欲しいって言ったらどうする?」

「協力?」

「いや、応援してくれるだけで良いんだ。それだけで心強いから。」

「応援だけなら全然しますよ!田代君は命の恩人感謝永遠にですから!」

「…何だよそれ。」


この台詞さっきから言いたくてウズウズしてたんですよね〜と楽しそうに笑う彼方に、あぁ本当に要の事はどうでも良いんだなぁと悟る。

臭いものには蓋をして、俺は笑って気にしていないフリを続けた。

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あきゅろす。
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