04

つくづくと思う。

俺は恋をしてはいけないのだと。

それを自覚したのは例のバリカン事件があってスグぐらいの出来事だった。


「天野。」


生徒会室で要と椿を捕まえた俺は三人で食堂へ向かった。

そこに居た一際目立つ集団は要の親衛隊で、彼方に加えて俺に制裁を行った連中も揃っていた。

俺は何だか嫌な気分になる。

制裁をしてきた連中が居たからではない。

その事実を知っていながら平気で近づいて行った要のデレカシーのなさにだ。


「会長…こんばんは。」

「何してる。」

「食事ですよ?ここは食堂ですから。」


しかもその口から飛び出たのは馬鹿みたいな質問。

俺は二人の馬鹿みたいな会話に心底イラついた。


「要…もう行こうぜ。」

「……。」


たいした用事もないんだろうと要の服を引っ張るがビクともしない。

なんだよ…と思っていると、今度は彼方が機嫌良く椿に話題を振った。


「そうだ泉川君。甘酸っぱい彼らはどうなさいました?」

「え?」


最初は甘酸っぱい彼ら、の意味が分からなかったが、椿の返した言葉を聞いてしっくりくる。

確かに文也と大聖は甘酸っぱい。

彼方まで話題に出すなんて、よほど皆が見守っている二人なんだろうな…正直に羨ましいよ。


「良いですねー。青春ですねー。」

「君は相手に困らないでしょう?」

「いえいえ。僕にはそんな時間も余裕もないので。」

「…僕らも暇な訳ではありませんが?なんせ君が辞退した役職の仕事がありますので。」

「ぁっ…失礼しました。そんなつもりはなかったのですが…。」


椿がキレた。

そうだな、今のは彼方の言い方が悪かった。

知らないにしろ生徒会は本当に忙しく、最近は俺も雑用を手伝うくらいだった。


「要、もう行きましょう。」

「あぁ…。」


椿といい要といい、どうやら彼方と性格が合わないらしい。

そのくせ積極的に話しかけるんだから、たまったもんじゃない。




「これウマッ!なぁ要!」

「……。」

「…要!聞いてるか…?要!」


珍しく椿が他の友達と食事する…と離れたため、二人で食事を取っていた。

最初は世間話をしていたが、食べる事に集中して少し間が空いた隙に要はボーッとしてしまったらしい。

何度か呼んでようやく気が付いてくれた。


「っ…あぁ、わりぃ。やっぱアイツむかつくよな。」

「アイツ…?」

「天野だ天野!食堂がメシ食うための場所だとか当たり前のこと…。俺は松坂達と連んでる事に対して質問したってのに、理解能力無さすぎだろ。」

「あぁ…」


なるほどな、要の頭の中は彼方の事でいっぱいな訳だ。

その後も彼方のココが嫌いだと言う話を延々と聞かされ、チラチラと彼方の動向を見ては、食堂から出て行く後ろ姿までしっかりと見届けていた。


「そんなに嫌いなら関わらない方が良いんじゃね?」

「…アイツが勝手に俺の親衛隊隊長になったんだ。」

「それなら尚更、要には辞めさせる権利あるだろ?」

「別にそこまでは…」


あぁ…逃げた、と思った。

嫌いなら関わるなと話を詰めていくと、どこか居心地が悪そうに頭をかいて今度は黙り込む。

散々悪く言うくせに、要は彼方を手元に置いておきたいんだ。

そんな姿を見て、なぜか俺は泣きそうになった。

馬鹿だな…なんで今、自分の気持ちに気付いたんだろう…。

思い返せば、出会った頃から要は彼方を気にしている節があった。

嫌いだからとも取れる言動の数々は、"好きだからこそ"にも見える。

きっと要は、彼方の事が好きなんだ。





「要…大丈夫か?」


例の通り生徒会の手伝いへ行くと、要が一人ボーッと座っていた。

幾ら挨拶をしても反応しない為、目の前で手をブンブン振ると、その手をギュッと強い力で掴まれた。


「悪いが一人にしてくれ。」

「…分かった。」


握られた強い力に対して、余りにも覇気のない声で告げられて驚く。

心配になりながら部屋を出ると、椿と大聖、文也の三人が前方から歩いてくる所だった。


「あ、お疲れ様…!!なぁ、要どうしたんだ?様子変だけど…」


パタパタと駆け寄って聞くと、三人は顔を合わせて渋い表情を浮かべた。


「天野君と少し揉めてね…少しナーバスになってるんだよ。」

「彼方と…?」

「彼、親衛隊から降りたんだ。その時に要と一悶着あって…。」


椿の説明に驚く。

確かに『嫌いなら辞めさせれば良い』とは言ったが、本当に現実になるとは思ってなかった。


「えっと…なんでだ?要が辞めさせたのか?」

「いや、天野君が言い出したんだよ。それが原因で二人が喧嘩はじめて…なんと言うか、天野君が高熱で可笑しかったのもあるけど、要もだいぶ煽ってたし、どっちもどっちかな?」


二人が喧嘩…特に彼方が怒るところなんて想像ができない。

例の風紀室での揉め事の時も怒ってはいたが、全員が渋い顔をするほどの喧嘩って一体…。


「でも二人って元々仲良くなさそうだし、彼方が辞めた所で問題なくね?」

「うーん、確かに…。」

「ねーねー。今日一日思い返すとさぁ、会長が渋って煽って喧嘩に発展してたよねぇ〜。だって天野クン最初は普通に話してたじゃん?」


俺はその現場に居なかったので実際どうだったのかは分からないが、大聖の言う通りなら容易に想像できてしまった。

要は、彼方を手元に置いておきたいんだよな?

だから今、彼方を失って抜け殻みたいになってるんだ。

きっとそう。



それから三日間ほどは生徒会室から足を遠ざけることにした。

行った所でどうしたら良いかなんて分かんねぇし…。

このまま要と会うのを辞めたほうが良いとさえ考えてしまう。

それは俺が要のことを好きだと自覚してしまったからだった。


.



あきゅろす。
無料HPエムペ!