03

「話を聞かせてもらおうか。」


授業が終わって早々に会長がそう言った。

無表情で感情は読み取れなかった。


「先程も言いましたが勉強に力を入れたいので。」

「だから親衛隊が邪魔だと?」

「言い方がアレですが…まぁ、そうですね…精神的な負担を減らしたいです。」

「お前はそれで良いのか?」

「はい。」


淡々と話す二人にクラス全体が注目していた。

天野と言えば…毎年恒例の人気ランキングで一位に選ばれた時、自分は会長の親衛隊に入ったので辞退します…とスピーチした事で有名だ。

それを聞いた多くの人達は天野が会長に片思いしているのだと悟った。

しかし今の天野を見ていると、会長のことを本当に好いているようには見えない。

一体、彼の身に何が起こったのだろう。


「精神的な負担になるなら、どうして俺の親衛隊に入った?」

「……生徒会に、入りたくなかったんです。ただ、どうしても入って欲しいと教師陣に説得されて…体良く断るには親衛隊に入るしか方法が無かったんです。並木先輩も居ましたし…それがまさか隊長に選ばれるなんて予想外でしたけれど。」

「…並木先輩が好きなのか?」

「…だから!それは違うって前に話しましたよね?何回も同じこと言わせるの辞めてもらえませんかね?」


急に声を荒げてマジキレしている様子の天野に、会長は驚いた顔をする。

俺たちもビックリしていると、急いで刈屋と神谷の二人が仲裁に入った。

そして風紀委員の連中も流石に見兼ねたのか、席を立ち上がって近づいていった。


「彼方〜落ち着けって、な?」

「いや、前から会長の僕に対する態度にはうんざりしてたし。僕より試験の点数が低いからって嫌味ったらしく突っかかってきて、文句垂れる時間があるなら勉強しろ。てゆーか田代に構ってないで勉強しろ。」

「っ…今その話は関係ないだろ!!」

「いやいや、アンタ記憶力無いみたいだからもう一度言うけど、僕は生徒会入りの辞退と並木先輩が居たから親衛隊に入っただけで会長様は眼中に無いし引き止めるとか意味不明。本当きっしょい。」

「テメェ…!!!」


今にも殴りかかりそうな会長を風紀の連中が抑えにかかる。

一方の天野は刈屋の手で口を覆われて、これ以上は喋るなと注意されていた。

えっと…あれ?天野だよな?頭ぶつけたか?それともアレが本性か?


「…彼方、めっちゃ熱あるじゃん!?なんで学校きてんだよ!」

「え?本当だ…え?ヤバイ!熱いって!」


刈屋の声に釣られて神谷が天野のおでこに手を乗せると、本当に熱があるらしく焦り出した。

確かに顔色が悪いとは思っていたが、そこまで酷いものだとは思っておらず俺も立ち上がって問題の中心核へ近付いた。


「天野大丈夫か…?うわ、マジで熱じゃん…、」


二人の言う通りに天野の身体は熱かった。

高身長の刈屋と二人で天野を担ぐように支えて教室を抜け出そうと引っ張っていく。

段々と天野の力がグッタリと抜けて重くなっていき、それが今まで如何に我慢をしていたのかを物語っていた。


「会長すみません。彼方のやつ、本当に熱でどうにかなってるみたいで…ちょっと冷静じゃないんですよ…」


神谷が申し訳無さそうに言う中、松坂や真木、篠宮も心配そうな様子で俺たちに近付いてきた。


「もうどうでも良い……、」


天野が小さな声で呟く。

本当に小さい声だったが、近くに居る人達には十分に聞こえるくらい教室が静かだった。


「何がどうでも良いんだ?」

「……、」


会長の問いかけに答えるつもりはないらしく、自ら足に力を入れて教室を出ようと押し進んでいく天野。

次も授業なので、歩きながら俺と刈屋、松坂だけが代表して付き添うことになった。





保健室に着いてからの天野は頭から布団を被り込んで、誰とも話したくないといった様子だった。

こんな風になるくらい天野を苦しめているものがある。


「ねぇ、天野…。」

「………。」

「僕、天野に今まで沢山暴言吐いてきたよね?だから、その分全部、僕にぶつけても良いから…本当に辛いこと話してよ。」


松坂は、聞いたことが無いような弱々しい声で語りかけ始めた。

きっとこの二人は…一言では言い表わせない何か不思議な関係性なんだろうな。


「前にも言ったけど…天野はいつも忙しそうで余裕がなくて、本当は人の話を聞くのが好きじゃない事も分かってる。面倒くさがりだし、毎日自分の事でいっぱいいっぱいなんでしょ?」


松坂には天野がそう見えていたことに驚く。

俺には逆に忙しくてもそつなくこなして、人の話を聞くのも上手と言う印象を持っていた。


「並木先輩も鳴海様も…本当に要領良くて、色んな事を同時に出来て凄いと思う。人の話を聞くのも上手だし。…だからこの親衛隊に入ったんじゃないの?」


グズ…っと、布団の中から泣いているような押し殺した声が聞こえてきた。

俺は何だか聞いてはいけないものを聞いてしまった気がして少し後退る。

松坂が布団の上から天野の頭を撫でるようにポンポンと何回も叩いた。

すると刈屋から小さく「外に出よう」と声を掛けられ、従うことにする。




「天野も大概バカだよ。我慢してカッコつけるなんて、カッコ悪い。」


泣きそうに言う松坂の声と天野のすすり泣く声を背に、俺はつくづく…いや、はじめて知った。

"完璧な天野彼方"は、俺達が俺達の中で勝手に作り上げた存在なのだと。




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