02
週が明けてからの天野は最早別人だった。
綺麗な顔に絆創膏をつけて、不機嫌そうに席に着く。
怪我をしたと言うより喧嘩をしたと言った方が納得出来そうな感じだった。
来て早々に寝るのだけはいつも通りで、だけど余りのやさぐれた様子に心配になった。
「彼方…ノート。」
「………。」
「ノート宜しくって言ったのは彼方じゃん。」
皆が驚きで静かに様子を伺う中、神谷が声をかけた。
こんな天野を俺達は知らない。
「学校辞めるし…良い。」
「ハァ…辞めれないくせに…。」
「…チッ、」
机に突っ伏した天野から舌打ちが聞こえた。
まずこんなにも弱っている事自体が驚きだが、敬語じゃない事にも驚きだ。
人に暴言を吐く姿も始めて見た。
何が何だか。
見守ることしか出来ない。
「ふてくされてても良い事ないよ。」
「……。」
「村おこしは辞めるの?」
「…休憩なう。」
「分かった。」
意味不明な会話で神谷は切り上げた。
村おこし…それが天野がこうなった原因?
よく分からない。
しかも休憩なうって…本当に彼は天野彼方でしょうか。
「夢野…あれは天野彼方だろうか。」
「だな、同じ事考えてた。」
高田とは初対面の時から考えがシンクロする率が高いんだけども…これはクラス全体が同じ考えだと思う。
だけど皆、動けなかった。
神谷と刈谷の二人は平然としているし、天野もグッタリ寝ているし…
誰も声をかけられない。
そんな雰囲気ではなかった。
微妙な空気が漂う中、授業が始まる。
授業中になると天野は起き上がって、不機嫌そうにノートを取り始めた。
天野の考えている事は分からないが、取り巻く空気の悪さだけは分かる。
先程神谷が放った発言から読み解けば、何かに対してふてくされているらしいが…。
そんな状態で授業が終わり、天野が立ち上がった。
自然と注目してしまう。
「松坂君、良いですか。」
「は、はい…。」
まさか自分が話しかけられるとは思ってなかったらしい、松坂は驚いたように返事をした。
いつもの毒気がついていかないくらい驚いている。
「僕は親衛隊を辞めます。隊長は松坂君に、副隊長は真木君にお願いしたいです。」
「はぁ!?」
松坂が叫ぶと同時にガタンと会長が席を立った。
えっと…まさか天野、親衛隊の事で悩んでたの?
「天野、そんな話聞いてないぞ。」
「今言いましたから。」
「…何故辞める。」
「理由は単純です。もう疲れました。学業を優先にしたいのでこれ以上は続けて居られません。」
まるで実家に帰りますと宣言する主婦のようだなぁ…なんて連想していたら、高田が「実家に帰らせて頂きます…」と小声で呟いた。
うん、分かる分かる。
「僕らの所為…?でも話し合って決めたよね!天野は確かに隊長を続けるってあの時言った!」
「そうだよ。僕も松坂くんも今までの事は反省して、隊長を認めてるのに…今更辞めるなんて何かあったの?」
松坂と真木も納得していないようだった。
「僕が色々誇張して、無い噂流したから…?」
「…違いますよ。」
今度は姫路が俯いて発言する。
姫路はこういう人前では話したがらないのに、わざわざ発言するなんて珍しい事だった。
少し緊張しているのが伝わってきて見てるこっちがハラハラする。
「ごめんなさい…もし僕の所為なら…」
「姫路君は関係ありませんよ…。本当に勉強が追いつかなくて辞めたいだけです。」
「天野、ちゃんとした説明がない限り俺は認めねぇからな。」
「会長……。」
殺伐とした雰囲気の途中でチャイムが鳴る。
見てる分には面白いけど…釈然としないな。
天野はこの状況に置いても多くを語らない。
「後で話し合いましょうか。」
天野は疲れたように死んだ目をして言って、席に着いた。
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