01

つくづくと思う。

親衛隊による田代への制裁が落ち着いていく一方で、どんどんやつれていく人が居ると。


「天野隊長最近元気ないよね…。」

「そうだな…。」


月一の定例会議。

天野の仕切りで現状報告をそれぞれが行う訳だけど、天野の元気があまりにもなかった。

笑ってはいるがどこか声に覇気がないし、無理をしているのが目に見えて分かる。

今までなら姫路や松坂辺りが突っかかりそうな所なのに、誰も何も言わなかった。

淡々と報告を終えていく。


「では、特に問題はないという事で…本日の会議は終了とします。」

「…天野、」


珍しく篠山が声をかけた。

他人に興味を持たないあの篠山が…。


「大丈夫か…?」

「あぁ…うん。ちょっと寝不足で…。」

「それだけとは思えない…、」

「体調管理がなってませんね…すみません、今日は帰ります。」


こんな時でも天野は何も言わない。

篠山が心配するなんてよっぽどの事なのに、天野は一人で教室を出て行ってしまった。


「大丈夫かな…、」

「あれだけしんどそうなら流石に休むだろ。」


問題は次の日に起こった。


「次の問題を天野さん……天野さん。…天野さん、大丈夫ですか?誰か天野さんを起こして下さい。」


授業中は必ず起きている天野が爆睡していた。

先生に言われて周りの人が天野を起こしにかかるが、それでも起きなかった。


「…もう良いです。寝かせてあげましょう。」


全く起きる気配のない天野に先生は諦めて別の生徒を当てた。

これだけ呼ばれても起きないなんて…相当疲れているに違いない。

やがて授業が終わって休み時間に入る。

それでも天野は起きない。

次の授業でも天野は寝ていて、授業が終わっても爆睡していた。

流石に皆も心配になったようで、松坂と真木が起こしにかかる。


「うぅ〜ん…、」

「天野ー!天野隊長ー!天野起きろー。」

「チッ…るさいなぁ、」

「はぁ!?心配してるのにウルサいって!」

「あぁ、松坂くん…スイマセン。」


天野はようやく起きた。

寝起き感たっぷりで俯きがちに手で顔を覆っている。

声はガラガラに掠れていた。


「あー…涎やば…。」

「隊長…大丈夫ですか?」

「うーん…眠いなぁ…。今は何時間目ですか…。」

「三限終わったとこ!次は四限だよ!」


松坂がフンっと怒ったように言う。

素直じゃないなぁ…。


「四限て…学校来た意味ない…。」

「知らないよ!てかしんどいなら保健室行けば?着いていって上げない事もないけど!」


松坂お前…もっと素直になれよ…。

可愛いなぁなんて思いながら観察をしていると、立ち上がった人が居た。

会長の鳴海要だ。


「天野…、」

「…はい。」

「保健室行くか?」


教室がざわついた。

だってあの会長が天野を心配して天野に話しかけて天野に保健室にって…!

駄目だ、俺が一番落ち着けよ。


「いえ、大丈夫です。」

「……。」

「顔洗ってきます。」


天野は会長の顔も見ずに教室を出て行った。

えっと…何これ?

天野も可笑しいけど会長も可笑しい。

松坂と真木はポカンとしていて、そんな二人に居心地が悪くなったように会長は自分の席に戻った。

教室はヤバいくらい静かでシーンとしている。

やがて松坂と真木も自分の席に戻って、俺達は微妙な休み時間を過ごした。




天野が帰ってくると皆視線を向ける。

いつも通りの完璧な天野がそこには居て、でも髪の毛が少し濡れていた。

そしてそのまま席に着くかと思いきや、一番後ろの席に向かって少し大きめの声を出した。


「神谷。やっぱり帰るからノート宜しく。」

「あいよ。」


えっ!と思った時には会話が終わっていて、天野は鞄を片手に帰っていった。

ノートを宜しくされた神谷を見る。

彼は風紀委員のメンバーで眼鏡をかけた真面目な人だ。

そんな人が何故急に天野に頼られたのか意味が分からなかった。


「何で俺じゃなくて神谷なんだよぉ。」

「それはお前の字が汚いからだね。」

「俺おつ〜。」


神谷の隣にはこちらも風紀委員のメンバーである刈谷が。

刈谷と天野がたまに一緒に居るのは知ってたけど、まさか神谷とも仲が良いとは意外だった。

やっぱり天野は謎だ。

知らない事が多すぎる。

そして大変なのはこの後だった。

その日以降、天野は週が明けるまで学校に来なかった。



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