04


こんな時につくづくと思う。

皆使えない。僕はどうやら運に見放されているらしい。

だったら…強硬手段に出るしかないと思った。

「会長さま?」

天野彼方が慕ってる会長の鳴海様。

彼が一人になるのを見計らって声をかけた。

鳴海様は青柳様と同じくらい性の噂を聞く人だから…きっと相手にしてくれるはず。

「…あぁ、姫路。」

「こんばんは、お一人ですか?」

どこか疲れた様子の鳴海様に、緊張で声が小さくなった。

「そうだが…。お前はこんな時間に何してる。そろそろ消灯時間になるぞ。」

「そうなんですけど…ちょっと眠れそうになくて…お散歩に。」

「そうか…。」

僕に釣られて小声になる鳴海様はちょっと可愛い。

こんなレアな姿を見れるなんて…きっと天野彼方も知らないはず。

「天野隊長のことで悩んでるんです。」

「…天野がどうした?」

奇妙な顔をされる。食いつきは悪くなさそう。

「実は青柳様と親しくなられたようで…僕が見たことがないくらい親密な雰囲気だったんです。」

「…天野と青柳が、」

「ごめんなさい。だから、鳴海様に相談したくて近付きました…すみません。」

「……天野は、青柳と付き合ってるのか?」

「いえ…。」

鳴海様が眉間に皺を寄せて僕を見る。ちょっと怖くて俯いた。

「天野と青柳は”何”をしていた?」

「それは…ちょっと…。」

「チッ……。」

具体的に何をしていたか聞かれて反応に困る。

言葉を濁して更に俯くと舌打ちをされてしまった。

でも、僕に対して怒っているというより天野や青柳様に対して怒ってるように思えた。

「鳴海様って天野隊長とは…」

以前より噂はあった。あの二人は出来ていると。

ツートップで人気者。

会長と親衛隊隊長という特別な関係だからこそ噂は耐えなかった。

一応松坂君や真木君が全否定していたけれど。

まぁ、あの二人の発言は願望に過ぎないし、実際のことなんて本人にしか分からない。

「なんだ。」

「お付き合いとかは…。」

「は?俺と天野が?…考えたくもないな。虫酸が走る。アイツなんかとヤるくらいならお前を抱く。」

「っ…!」

鳴海様が顔を寄せてきてビックリする。

その上、天野に対する憎悪が伝わってきて体温が熱くなった。

「俺はアイツがこの世で一番嫌いだ。名前も聞きたくねぇ。」

「鳴海…さま…、」

「だから俺の前で二度とその名を口にするな。」

睨み付けながら言われ、強引に唇を奪われる。

僕は幸せだった。

鳴海様は僕と同じことを考えていて、そして僕を抱いてくれた。

人と同じってだけでこんなにも安心出来る。

僕は少しだけ鳴海様の心に近づけた気がして、安心感と優越感に気持ち良くなった。

天野彼方はきっと、こんな幸せを知らないはずなんだから。




次の日の朝、鳴海様がどこかに電話をかけた。

「来い。」とだけ言ってソイツは現れる。

天野彼方だった。

「………。」

戸惑ったように僕らを見る天野彼方。

視線の先には昨夜の香りを残した僕と鳴海様。

「どうされましたか。」

どうにか笑って言う天野彼方に僕は優越感が湧いてきた。

天野に勝ったとでも言うべきか。

苦しそうに笑う天野を初めて見た。

「飯でも作れ。」

「……注文します。和食と洋食どちらが宜しいでしょうか。」

天野は怒ったように電話の受話器に手をかけた。

ここで怒るのは当たり前だろう。

こんな姿もレアで僕は益々嬉しかった。

「じゃあ僕和食でー。」

「……。」

僕を見るのも嫌らしい。

無言で電話をかけ始めた。

隣の鳴海様を見れば何かを考え込んでいる。

「天野。」

注文を終えた天野にすかさず声をかける鳴海様。

「今日はやけに怒ってるな。天下の天野彼方にしては珍しい。嫉妬でもしたか?」

ニヤニヤと意地悪そうに言う鳴海様は心底楽しそうだ。

何だか僕まで楽しくなってくる。

「金輪際このようなレベルの低い嫌がらせは辞めて下さい。失礼します。」

フワリ、いつもの天野彼方だった。

鳴海様は舌打ちをして、僕も下唇を噛んだ。

馬鹿、馬鹿、馬鹿。

収穫はあったけど肝心な所はいつも分からない。





あきゅろす。
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