01
つくづくと思う。
俺は”この世界”に不要な存在なのだと。
「祥平!今から放課後デートしようぜ〜!」
「お前らホモかよ!」
「バカ辞めとけって!祥平が喜ぶだけだろ!」
教室中に響き渡る笑い声。
耳が痛い。
心に突き刺さる。
それでも俺は笑わなければならなかった。
「ふざけんな!俺はホモじゃねぇよ!」
お決まりの台詞にギャハハ!と笑い声がピークに達する。
俺はこの教室で『ホモの田代』という皆が喜びそうなキャラクターを付けられ、毎日のように"イジられ"ていた。
「分かってるっつの。お前がマジでホモだったら友達辞めてるわ。」
「マジそれなぁ〜!」
「ケツがやべぇ。」
「…だからホモじゃないし、仮に俺がホモだったとしてもお前らのケツだけは要らねぇわ。」
苦笑いしながら近くに居た茂のケツを蹴り飛ばせば、徹矢と彰良がゲラゲラと笑った。
『じゃあ俺、出会った時からコイツらと友達じゃねぇじゃん…、』
声には出せない思いを抱いて、俺は皆の求める田代祥平として一緒に笑った。
「…つかれた。死にたい。」
これが俺の口癖だ。
家に帰って部屋にこもると、口から出るのは疲れたと死にたい。
これ以上の言葉はなくて、独り言はいつもこれだった。
もう今の日常に慣れてしまって今更悲しくもないけど、やっぱり疲れるし死にたくもなる。
恋なんてしなければ良かった。
俺には仲の良い友達が三人居た。
まず俺がケツを蹴り飛ばした茂は、やたらと身振り手振りの多いおちゃらけキャラだ。
容姿は少し幼い感じで、なんだか普通。
笑うと可愛いらしいけど本当に普通。
二人目は彰良。
コイツはなかなかに性格が悪い。
人の悪口が大好きで人の欠点ばかり見つけては大々的に発表する。
でも顔はカッコイイほうなので誰も何も言えない。
きっとジャイアンよりもジャイアンだと思う。
最後に徹矢。
徹矢は俺に対してだけ当たりがきつい。
俺にホモキャラを設定したのはコイツだし、そのネタで弄ってくるのも基本は徹矢がキッカケだ。
見た目は年相応で普通。
特別格好良くはないけど、明るいし背も高いから女子受けは良いらしい。
そんな徹矢は…俺が恋をした相手だった。
思えば俺は生まれた時からそうだった。
いつも男の子の目を気にして、少しでも気を引きたいと思うような幼少期を過ごしてきた。
周りから女の子みたいで可愛い、なんて言われることに喜んだり…俺は男でありながら同性が好きだった。
徹矢のことを好きになったのは何てことない一目惚れだった。
この三人とは高校で出会って、徹矢の事はなんとなくタイプで、なんとなく憧れを抱いた。
別に付き合えなくても良い。
好きな人が近くに居るだけで俺は幸せだった。
「え、キモっ!なにニヤついてんのー?」
高校一年生の夏、俺にそう言ったのは彰良だった。
放課後に四人でアイスを買い食いしていた時、徹矢が俺のアイスを何のためらいもなく口にした後の出来事だった。
「もしかして徹矢が好き的なー?祥平って実はホモ?」
「っ……、」
目の前にはニヤニヤと笑う彰良の顔。
急に現実に引き戻された瞬間だった。
あぁ、そっか。
俺はこの世で普通に生きられないんだった…なんて当たり前のことを思い出す。
「俺のアイス好きを舐めんなよ。そらぁ目の前に大好きなアイス様があったらニヤけるだろ?顔も赤くなるだろ?」
「からの〜!?」
「茂シネ!」
「おぅふっ!」
悪ノリしてきた茂を軽く蹴って誤魔化す。
彰良は相変わらずニヤけながらアイスを食っていた。
「お前だってニヤけてんじゃん!」
「あ、マジで?あーー!俺もおホモダチの仲間入りかよ〜!」
「辞めろ!ガチの人に怒られるぞ!」
彰良の悪ふさげを見て、どうやら誤魔化せたのだとホッとする。
それにしても徹矢の顔を見れない。
あれから何も言わないし、どうしよう。
「祥平がホモとか…普通に無理だわー。」
「…え?」
隣からそんな声が聞こえた。
徹矢の方を見ると俺から距離を取るように離れていく。
「俺逃げた方が良くね?」
「そうじゃーん!徹矢今すぐ逃げろー!」
「じゃあ俺も一応逃げとこっと。」
三人が可笑しそうに笑って、俺から離れていった。
「………辞めろよな!」
これが決して笑えないおふざけの始まりだった。
それからはホモキャラというレッテルを貼られ、ネタにされては辞めろと笑う日々。
本当の俺はどこにも居なくって、誰も本当の俺を知らなかった。
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