05


「会長さま?」


日々の疲れに天野の存在が重なりストレスがピークに達していた頃だった、青柳の親衛隊隊長である姫路に声をかけられたのは。

姫路とは一応クラスメートでもあるが、まともに話したこと記憶が全くない。

普段は青柳一筋で他は何も見えていないような態度なのに、今日に限って何の気まぐれだろうと、また違う疲れが押し寄せた。


「…あぁ、姫路。」

「こんばんは、お一人ですか?」

「そうだが…。お前はこんな時間に何してる。そろそろ消灯時間になるぞ。」

「そうなんですけど…ちょっと眠れそうになくて…お散歩に。」

「そうか…。」


どこか震えた声で言う姫路が意外で少し興味を持つ。

時間を気にしてなのか段々と小さくなる声に釣られ、俺も声を小さくした。


「天野隊長のことで悩んでるんです。」

「…天野がどうした?」


天野彼方、こんな時にも話題に上がるなんて。

俺にとっては嫌な話題であり、タイムリーでもあった。

聞きたくない名前であるはずなのに、名前を聞くだけで興味が湧く所がまた憎たらしい。


「実は青柳様と親しくなられたようで…僕が見たことがないくらい親密な雰囲気だったんです。」


姫路は俺を煽るようにわざと含みのある言い方をした。

親密という言葉に色が付いていることは容易に察することが出来る。

その証拠に姫路の目が、俺に抱いてくれとお願いしてきた他の連中と同じ目の色をしていた。


「天野は、青柳と付き合ってるのか?」

「いえ…。」

「天野と青柳は”何”をしていた?」

「それは…ちょっと…。」


あぁ、きっとこれは嘘に違いない。

俺が睨みを利かせると、姫路は目を逸らして俯いてしまった。

そもそも青柳と天野は外部入学生という共通点があるため、交流は多いほうらしいし、あの青柳に限って遊びの関係なんてあり得ないだろう。

あれだけ青柳に熱心だった癖に、今度は俺に近付くために青柳をだしに使う姫路の性格の悪さにイラついた。


「鳴海様って天野隊長とは…」

「なんだ。」

「お付き合いとかは…。」

「は?俺と天野が?…考えたくもないな。虫酸が走る。アイツなんかとヤるくらいならお前を抱く…俺はアイツがこの世で一番嫌いだ。名前も聞きたくねぇ。」


自分でも驚くほど天野への悪口が次々と零れ出した。

その感情を包み隠すことなく、思いのままに姫路を睨みつけ顔を近づける。

すると顔だけは可愛らしい姫路の頬がほんのり赤くなった。

天野といい姫路といい親衛隊にはロクな奴が居ない。


「俺の前で二度とその名を口にするな。」


気分の悪くなることしか言わないその口を自分の口で塞いだ。

嘘吐きで、何もかもが軽くって、価値のない男…。

嬉しそうに抱かれている姫路を内心馬鹿にしながら日々のストレスを発散させた。




翌日の早朝、隣で眠る姫路の顔をぼぉっと見つめた。

冷静になると、何故こんな価値のない男を抱けたのかと呆れてくる。

コイツに何か価値がないものかと思考を深めた。


「天野…、」


急に天野の顔を思い出した。

今ここにアイツを呼べばどんな顔をするのだろう。

正直顔も見たくないが、俺の親衛隊に入っているぐらいなのだから多少は面白い反応をしてくれるかもしれない。

そう思い、嫌がらせに天野を電話で呼ぶことにした。


「………。」


思っていたよりもすぐに駆け付けた天野は、俺と姫路を見て唖然と立ち尽くしていた。

その様子を見て可笑しそうな声を出す姫路に釣られ、俺も笑いながら「飯でも作れ。」と滅茶苦茶な注文をぶつけた。


「……注文します。和食と洋食どちらが宜しいでしょうか。」


天野が怒っている。

まぁ当然の反応だろう、なんとも愉快だ。

ただ少しつまらないのは、その後は淡々とした仕事として電話をかけ始めた所である。

せっかくのストレス発散なのに、そう簡単にスイッチを切り替えられては面白くない。


「天野、今日はやけに怒ってるな。天下の天野彼方にしては珍しい。嫉妬でもしたか?」

「金輪際このようなレベルの低い嫌がらせは辞めて下さい。失礼します。」


自分でも分かるくらいニヤニヤして挑発してみたが、すっかりスイッチが切れ替わってしまった天野は、ふわりと微笑んで去っていった。

こんな嫌がらせにも使えないほど姫路は価値がないらしい。

いや、そもそも俺のことを嫌っているのか…?


「チッ…、」


急に考えるのが馬鹿らしくなって俺は考えるのを辞めた。





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