04
新学期に入ってすぐに行われた試験の結果が返ってきた。
点数のついた紙自体は返却済みだが、総合点や平均値などがまとめられた成績の用紙はGW明けでの配布という嫌らしい流れだった。
「………。」
俺はその紙を折りたたみ筆箱の中に入れる。
放課後になって生徒会室でコッソリと開き、もう一度成績を確認した。
「なんで…、」
教師の間違いだろうと手を震わせる。
やはりそこには学年順位の項目に『2』と記してあった。
それは高校に上がってから始まった。
中学までは1位以外の順位なんて取ったことのなかった俺が、高校に上がってからは2位しか取ったことがない。
いくら努力しても、いくら良い点数でも結果は2位なのだ。
英語のケアレスミスがいけなかったのか。
でもたった二問の間違い…それもダメらしい。
「あ、そう言えばさ、先生が言ってたけど俺らの学年の最高はオール100らしいぜ!スゲェよな〜。」
「そんな人、居るんだね…。」
祥平の言葉にいつもより気分が落ち込んだ様子の椿が答える。
椿は昔から努力型で、頭は良いが試験の点数は平均より少し上と言う微妙なラインで戦っている。
この様子を見れば結果はいつも以上に思わしくなかったようだ。
「まぁどうせ、今回も要でしょ…?おめでとう。」
「えっ…要ってそんなに頭良かったのか!スゲェ!」
恨めしそうに見てくる椿とテンションが上がって詰め寄ってくる祥平に、俺はどうしたものかと戸惑った。
どう考えても自分じゃない。
一体誰なんだ…?
「あーそうだったんだ〜。俺はてっきり天野クンが一番かと思ったなぁ。」
「…天野?」
「ほら、天野クンって頭良いじゃん。」
青柳から出た意外な事実に心臓が震える。
あの顔が綺麗なだけで、いつも休み時間は悠々と睡眠をとる天野彼方が…?
綺麗なだけが取り柄なんだろ?
それが何故…、
「俺は天野クンと一緒の外部入学生だからたまに話すんだよ。入学試験で全問正解だったんだって。この間の学期末テストの結果も良かったらしいし、会長も気をつけないと1位奪われちゃうかもね?」
悪戯っ子のように話す青柳には悪いが、もう事は終わってしまっている。
なんだろう、天野は俺から何もかもを奪っていくようだ。
人気も、成績も、良い気分も奪っていって、その癖にいつも俺の心の中…近くに存在している。
「あれ…?二位?」
「っ……!」
「あ、ごめん…、」
いつの間にか祥平が近くに居ることを忘れていた。
もうこれで生徒会メンバーには十分に伝わって、微妙な空気が流れ出した。
「…今年の冬は寒かったからな。そんなこともある。」
「う…うんうん!確かに寒かった!」
「だよな。あー寒かった寒かった。」
今まで話を聞いていただけの城本が急に話しだす。
それに乗って明るく話す青柳に、俺は気を使われているのだと悟った。
城本のこう言う所は嫌いじゃない。
城本にしろ青柳にしろ本当に優しい奴らだ。
「要…ごめんな。」
「いや、見えるように置いてた俺が悪い。…確かに今年は寒かったからな。次は万全の状態で挑む。」
俺は城本の作ってくれたメチャクチャな逃げ道を使って祥平に微笑んだ。
休日の早朝、天野と風紀所属の刈屋に出くわした。
刈屋も外部入学のため二人は仲が良いと噂されているが、実際に一緒に居るのは初めて見た。
どうやら噂は本当だったようだ。
「天野、試験の結果はどうだった?」
「…会長、どうしたんですか急に?」
「青柳からお前の成績が良いと聞いてな。」
「あぁ…」
挨拶もなしに聞けば、不思議そうに見つめられる。
この時の俺はそれほどまでに冷静ではなかった。
「別に対した順位ではありませんよ。」
「……1位が、対した順位じゃないって?」
困った笑みで返ってきた答えに俺は怒りが湧いた。
思わず睨みつけると俺から一位を奪ったのだとようやく察したらしい天野は、俺から目を逸らして苦笑いを浮かべた。
「…たまたま運が良かっただけです。」
「分かった。”また”1位が取れて良かったな。」
「…いいえ。」
プツンと、何かが切れる音がした。
綺麗な天野、皆が注目する天野、人気投票で一位、成績も一位、並木先輩が選んだ新しい隊長。
親衛隊だって、天野が隊長へ就任してから圧倒的に増員した。
皆、天野のことが大好きなのだ。
「分かった。」
俺は歯を食いしばってその場を去った。
悔しい、あの日にアイツが会長になれば良かったんだ。
なのにコイツはあの日以来、俺のことを役職名で呼ぶ。
俺にだけ当て付けみたいに会長と呼ぶ。
何故、求められていない俺が生徒会長として仕事をしなければならない。
何故。
俺はこの日を境により一層、天野彼方を嫌いになった。
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