03

俺達は進級し二年生になった。

教室での天野はいつも一人で寝ているか勉強をしているかのどちらかだ。

それを邪魔したり介入しようとする者は一人も居らず、みんな遠巻きに天野を見ていた。

一人…というのはマイナス面でしかない。

なのに天野を見ていると不思議と他とは違うオーラを感じた。

初めこそ顔だけがとにかく派手という印象だったが、天野の強かで自信に満ち溢れた佇まいや、それでいて何処か控えめなところは妙にバランスが良いように思う。

ただ本当の天野を誰も知らないが故に俺にはそれが嘘くさく見えて、二年生へ進級しても良い印象は持てなかった。

さらにあの報告会以降は以前より増して奴の存在を意識することから逃れられなくなっていた。

ぽっかり穴が開いたような気持ちはいつまでも治らず、病気みたいに身体が怠い。

頭の中で天野の顔が自然と浮かび、苛ついては頭を振って消すことの繰り返しだった。






「よ、よろしく…!」


GWが明けた微妙な時期に編入生を紹介された。

そいつは田代祥平という生徒なのだが、外見が奇抜以外の何物でもない変な奴だった。

色んな方向へ跳ねた黒髪に分厚い眼鏡を掛けたいでたちは、どう見ても変人だ。


「じ、事情があってこんな格好してるけど…慣れるまではこのままで過ごしたいんだ…!だ、だだだから、協力して欲しいっ…です!」


ほとんど叫びに近いどもったお願いに俺達はどこかホッとした。

変な姿ではあるが、それを上回るほど必死で、緊張している事が伝わってきたからだ。


「大丈夫、俺らに出来ることがあれば協力するからね。」


まず声をかけたのは青柳だった。

コイツは噂では遊び人だなんて言われているが、根は穏やかで優しい男の子…と言う感じの奴で、今だって心から手を差し伸べて居るのが分かる。

俺たちが田代祥平と壁を作らなかったのは、確実に青柳の影響であった。

そういった流れも手伝って、俺達生徒会やその場にいた風紀の連中は田代祥平に手を差し出した。

ところで祥平は前に居た学校を一年間通っても馴染めなかったらしく、この学園へ編入を決めたそうだ。

サラッと聞いただけなので詳細は知らないが複雑な事情があるのは確かだった。


「ということで祥平が学園に慣れるまでは俺達がサポートすることになった。一応何かあった時の為に報告しておく。」

「了解です。」


学園の連中、特に親衛隊は過剰な所があるため、念の為に天野へ報告を行った。

この時はまだ祥平の安全の為にも必要以上の関わりを持つ予定はなかったが、この後の出来事がそれを大きく変えた。


「それで編入生は?」

「あぁ…紹介する。」


隣の部屋に待機させていた祥平を呼んで自身の隣に座らせる。

天野は祥平をじぃっと見つめ、話し出すのを待っていた。


「田代祥平です!クラスは違うけど同じ学年だから宜しくな!」

「…天野彼方です。」

「…ぁ、」

「はい?」

「いや、何でもないです…と言うか彼方ってスゲェ綺麗だな!超イケメン!」


祥平が一瞬、まるで何かを思い出したかのように息を吐いたが勘違いだったらしい。

今度こそ持ち前の明るさで天野を褒め始めた。


「俺とどっちが格好良いんだ?」

「えっ…えっ!?」

「俺たちにもお前ら格好良いな!って言ってただろ?」


俺は思わず笑いながら祥平に聞く。

意地悪な質問だとは思うが、テンパる祥平が可愛くて可笑しかった。


「えっ…えー!!マジ無理!決められないし!」

「それを決めるのがお前の今日の仕事だ。」

「何だそれ!俺の反応見て遊んでるだけだろ!」

「チッ、バレたか。」


祥平は初対面の時こそ緊張でどもっていたが、話してみると見た目以上に良い奴で話していると楽しかった。

いじり甲斐もあるがそれを察する鋭さも兼ね揃えているので中々に面白い会話が出来る。


「……ぁ、えっと、彼方…改めて宜しくな!」

「…はい。」


天野は笑って頷いたが、祥平と目を合わせようとはしなかった。

そこに違和感を抱いた俺は挨拶が済んだことを理由に祥平を一旦退席させた。


「どうかしたのか?」

「何の話ですか?」

「祥平…何か気に入らなそうだったろ。」

「そうでしょうか…?純粋で可愛らしい子だと思いました。」


天野は口ではそう言ったが、どこか嘘っぽく聞こえる。

不満を抱いているのは明らかなのに、何故それを隠そうとするのだろう。


「本当のところはどうなんだ?」

「…つまり何が言いたいんですか?このように身に覚えのないことで責められるなら帰りますけど。と言うか帰ります。」

「っ…ちょっと待て。」

「会長の友人関係に文句なんてつけませんよ。僕は至ってノーマルですから、制裁も行いません。あ、これは差別的でしょうか。すいません。とにかく、変に勘ぐって僕を疑うのは辞めて頂きたいです。」


天野が怒ったような無機質な声で言ったことに、質問の意図が間違って伝わっていることを理解した。

俺は別に天野が制裁なんてするとは思っていないし、そう言う所は信用している。

そもそも信用がなかったら祥平のことを話したり紹介したりしない。


「勘ぐってねぇよ。俺はただ…」

「もう帰っても良いでしょうか?」

「なんでそんなに怒ってるんだよ。」

「……。」


天野は口をつぐむと小さく息を吐いて落ち着きを取り戻したようだった。

あの天野が怒るなんて珍しいことだ。

俺はドキドキしながら次の言葉を待った。


「怒ってません。僕はただ、本当に彼に対して思う所がないんです。会長があまりにも聞いてくるから疑われているのかと…、」

「それは失礼だったな…悪りぃ。ほら、アイツあんな身なりだろ?深くは知らねぇが事情があるらしくて、根は明るい奴なんだ。」

「そうなんですか…。」


考え込む様子の天野に俺はホッとして、ようやく息を吐いた。

確かに俺の聞き方が悪かったように思う。


「だから天野もたまには気に掛けてやってくれ。」

「…分かりました。」


今度こそしっかり頷いて天野が出て行く。

悪いようにならなければ良いが…。




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