02

「鳴海、僕の後任には天野彼方を指名したから。」

「…え?」


突然そう告げてきたのは俺の親衛隊で長年隊長をしていた並木先輩だった。

もうすぐ三年生になるし、隊長職を退いて後輩に譲る…という相談は以前より聞いていたが、まさか天野の名が出てくるとは思っていなかった。


「天野も首を縦に振ってくれたんだ。だから今後は天野に相談して欲しい。クラスも一緒なんだし仲良くやってな。」

「…分かった。」


思う所はあったが並木先輩は忙しそうで、俺も生徒会の引継ぎで時間に余裕がなく、その日はこれだけで別れた。

後日聞かされた話によれば、どうやら本当に天野が隊長に就任したらしいが、そのことが原因で一悶着あったらしい。

それも何とか収まりはついた、と直々に報告を受けたのが天野が隊長に就任してから初の仕事だった。


「そう言えばこうやってお話するのは久しぶりですね。」

「まぁ…そうだな。あれからバタバタしてたし。」


天野が隊長に就任し報告を受けた頃には、無事に三年生の卒業式や引き継ぎも終わり、もうすぐ新学期を迎えようとしている頃だった。

今度は入学式の準備で生徒会はバタバタしているが、少しぐらいは余裕が持てるようになっていた。


「そんなことより、なんでお前が隊長に?」

「あれ?並木先輩から聞いてないんですか?」

「忙しかったからな。」


口を開けば「忙しい」が出てくる。

なるほど、と小さく呟いた天野に少し苛立って、八つ当たりに舌打ちした。


「並木先輩曰く、僕は外部からの入学なので学園の色に染まってなくて良いそうです。」


確かに並木先輩らしい判断だと思う。

あの人は俺の親衛隊に入ってはいたが、俺のことを常日頃「まるで弟のようだ」と評していた。

そんな兄貴のような人が後任に選ぶ条件としては筋の通った理由だ。

だが一つだけ引っかかることがある。


「でもお前、学園の色に染まってないって…俺のことが好きなんだろう?」

「…え?」


天野は一瞬キョトンとした顔をしてから、次第に何かに気がついたように頬を綻ばせてケタケタと笑い始めた。


「まさか!今までそんな勘違いを?ないない!あれはクラスメートの一人としてですよ!」

「っ……、」

「ご心配なく。僕が君をそういう対象として見るなんて間違いは今後も起こらないので。」

「じゃあなんで俺の親衛隊に…!」

「並木先輩が居たからですよ。彼の下に居れば安心出来ると思ったので…。あ、もちろん並木先輩にも恋愛感情は持ち合わせていませんよ?僕はいたってノーマルです。」


そう告げられた俺は崖から突き落とされたように気分が落ち込んだ。

こんな感覚は初めてで、さっきまでとは違う世界に居るようだった。




「要、新しい隊長…天野君との報告会はどうだった?」

「あぁ…別に、」

「何?なにか言われたの?」

「いや、特に何も。」


同じ生徒会の仲間である椿が不思議そうな顔をしているが、何故気分が優れないのか理由も分からないので話しようがなかった。

並木先輩の選択、天野の就任、全てが綺麗な枠に収まったはずなのに…俺の気持ちだけが急に投げ出されたようだった。

俺は何故、こんなにもショックを受けているのだろうか。




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