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つくづくと思う。

天野彼方が気に食わないと。


「今回は沢山のご投票を頂きまして誠にありがとうございます。このような形で評価して頂く機会に恵まれて大変光栄に思います。」


それは高校1年生、冬の出来事だった。

学園の人気者を決めるための人気投票はこの学園で毎年行われている恒例行事。

俺はそのランキングのトップとして最後に挨拶をするはずだった。

その自信があった、天野彼方と“この場”で対面するまでは。


「皆さんの応援を無碍にすることは大変心苦しい選択ですが、僕は生徒会入りを辞退します。実は先日、鳴海要さんの親衛隊に入隊しました。今後は他の選ばれた皆さんを陰ながら応援し、支えて良ければと考えております。よろしくお願いします。。」


俺の親衛隊に入ったらしい天野は、無駄のないスピーチを丁度いい具合で終了し、生徒たちのざわめきも余所に袖幕の裏へ捌けていった。

この時の俺の感情は悲しみと怒りと嫉妬をごちゃ混ぜにした醜いものだったと思う。

それは中学時代の人気投票で一位を取ったこの俺が、ただ顔が綺麗なだけで何の取り柄もない天野彼方に一位を奪われたことが原因だった。

この学園は中高一貫のエスカレーター式であるため、殆どが顔なじみである中、外部生として入学した天野は一際目立っていた。

今でも天野を初めて見た日のことを鮮明に覚えているくらい奴は誰よりも綺麗で、まだ見慣れない目新しい人物ということも重なり、『天野彼方』を持ち上げる風潮は次第に強くなっていった。

それがまさか、人気投票で一位を取るまで登り詰めるとは思わなかったが。


「よう、随分なご挨拶だな。お前が俺の親衛隊に入ったって?」

「えぇ…これからお世話になります。」


発表終了後、俺は一目散に天野を捕まえて話しかけた。

先ほどまでの堂々とした余裕のある表情はどこへ行ったのか、どこか面倒くさそうに返される。

ここでまた苛立ちが一つ重なった。


「生徒会、本当に辞退するのか?」

「えぇ、まぁ、決まりですので。」

「お前が一位に選ばれたんだ。生徒会長になれよ。」

「いえ…、僕より鳴海君の方が生徒会長に向いていると思うんです。僕は目立つのが本当に苦手だし、これからは陰で皆さんを応援していきたくて…。」


あんなに動揺することもなくスピーチを終わらせたくせに、目立つのが苦手とは良く言ったものだ。

俺より優位に立っていながら俺を持ち上げて、その下に就こうとする発言そのものも嘘っぽくて気に食わない。


「お前ふざけんなよ。」

「…嫌ですか?」

「嫌って…、」

「僕、鳴海君に迷惑だけは掛けないように頑張ります。確かに無責任で身勝手な判断だとは思いますけど…もう決めたんです。」


天野が控えめに笑う。

その時の目があまりにも綺麗で、俺はそれを打ち消すように舌打ちした。


「俺のことが、好きなのか?」


聞いてから緊張してくる。

それでも聞いてみたかった。

わざと一歩引いた立場を進んで選んだのは俺を好きだからなのか。


「好きか嫌いかで言うと…好き、かもです。」

「…。」

「すいません、ちょっと、普通に照れるのでこれで勘弁して下さい。」


天野はハハッと本当に照れたように笑うと、それを誤魔化すように慌てて立ち去ってしまった。

残された俺は手を頬に当てて俯く。

夏でもないのに顔が熱い。

天野の存在は気に食わないが不思議と悪い気はしなかった。





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