09
「天野は、僕の話を聞いてくれない、いつもそう。僕は天野を隊長として認めてた。田代のことも最近はどうでも良くなってた。ただ天野と話したかったんだよ!僕を認めて欲しかった!なのに天野が僕を無視するから、ムカついて田代に八つ当たりしたの!僕は無視されて田代とは友達なんてムカツク!本当にムカツク!」
「……え?無視…ですか?」
「っ…何!?その心当たりないって顔!?でもしてたからね!いつも忙しい忙しいって、僕らをただの偏見で評価して対処したつもりになって!忙しいなら相談しろ!忙しいなら仕事分けろ!何でも一人で解決するな!」
一気に言って深呼吸した。
そうだ…!そうだ!!
天野は何でも自分で解決して、そんなの僕らの立場がない。
僕らなんて不要だって言われているようなものだ。
そんなの悲しい。
そんなの嫌だ。
「無視をしているつもりはありませんでした…。」
「だろうね。天野は余裕がありそうで無さそうだった。何なの?なんでただの決め付けばかりで話を進めようとするの?」
「…確かに、余裕はなかったです…恐らく。…それに…正直に言うと……君達と話すのが面倒、でした。」
「っ…。」
天野は何かを確認するかのように、動揺した様子でそう言った。
改めて言われるのは辛いものがある。
やっぱりそうだった。
僕らは眼中になかったんだ。
それ所か鬱陶しいとさえ思われていた…。
「こんな僕のことは、嫌いですか?」
自虐的な、困ったような感じで笑って聞かれる。
嫌い…な部分もある。
でもそれ以上に認めてもらいたい部分の方が大きかった。
「嫌いだし、嫌いじゃない。」
「……良かったです。」
天野はホッとしたように息を吐いた。
お互いに、見えていない部分が多すぎたのかもしれない。
独り善がりって言うのかな?
急に自分のことが情けなくなった。
「僕、天野にも田代にも酷いことした。僕の方こそ副隊長失格…。こんなんじゃ並木隊長に合わせる顔もないよ。」
「松坂君…。」
真木が肩に手を押いてきた。
冷静に考えると益々自分のしたことを後悔した。
馬鹿だよ僕は…。
あんな風にヒステリックになって、まるで癇癪を起こした子供じゃないか。
「辞めるなら僕が辞めます。好きで居るのに立場は関係ありませんから。」
並木隊長が僕を隊長に選ばなかったこと…そして天野が選ばれた一番の理由はきっとこれだと思った。
以前の僕は立場ばかりに囚われていた。
でも本当は、純粋な気持ちさえ持っていれば関係ないんだ。
鳴海君への気持ちも、天野への気持ちも、大切なのは見せ掛けの立場なんかじゃない。
だから、だから…
「だけど、辞めても、天野と話がしたい。友達になりたい。隊長としてじゃなくて、友達として…。」
「っ…」
「立場なんてどうでも良い。やり方は間違ってたけど…本当は天野と仲良くなりたい。」
皆が驚いたような表情で僕を見ていた。
そうだよね。
今までアンチ天野派なんて呼ばれて、何かと弱みばかり探ってきた。
「天野はいつも遠くて、それが悔しかった…。だから、きっと田代が羨ましかったんだと思う。鳴海君も、天野も、僕が好きな人を皆独り占めしてる…。」
「松坂君…、」
天野は驚いた表情を浮かべてから僕を抱き締めてきた。
その行動に今度は僕が驚く。
まさか抱き締められるなんて思ってもみなかった。
「ごめんなさい。」
「え…?」
「僕も、一人で突っ走り過ぎた部分はありました。並木先輩があまりにも完璧な人だから…自分もそうなれるようにと思うばかりで、周りを見れていなかった。」
天野は以前、並木隊長は憧れの人だと話していた。
確かに並木隊長は勉強が出来てスポーツも万能でしっかりしている。
きっと親衛隊の隊長じゃなければ生徒会入りをしていただろう。
それくらい並木隊長は、三年生の中でも特別に目立っている人なのだ。
「立場なんて関係ないって言っておいて、僕が一番立場にこだわっていたのかもしれません…。何も聞いてこなかった癖に先入観で君達を判断して…本当にごめんなさい…。」
急に涙腺が緩んだ気がした。
ようやく僕の言葉が天野に伝わったのだと感じたから。
「こうやって、寄り添うみたいに分かって欲しかった…共感、し合いたかった…。」
「…うん。」
「なのに、なのに、」
上手く言葉が出てこないでいると、天野が僕を強く抱き締め直して頭をポンポン叩いてきた。
それが優しくて、僕はやっぱり天野が好きなんだと思った。
つくづく思う。
僕と天野は何もかもが違うって。
でも違うのは当たり前で…寄り添えば分かり合える日が来るかもしれない…なんて素直に思った。
←
無料HPエムペ!