08
「へぇ、刈屋ってマジで上手いのな。つーか上手いってレベルじゃねぇ。プロだよプロ。」
「まぁ?刈屋だけにって感じ?流石は俺〜。」
ジョキジョキ髪の毛を切られる音がする度に泣く僕なんてお構いなしで、夢野と刈屋がワイワイと話す。
本当に大丈夫なの…?
もう心配でならない。
「松坂君、大丈夫ですよ。本当は僕がしたい髪型ですから。」
「……。」
「へぇ、これを天野がねぇ。意外意外〜。」
「そうでしょうか?久々に刈り上げしたかったんですよねぇ。楽だしお洒落だし一石二鳥でしょう?」
「はい終わりぃ〜。松坂!完成!」
パンッと肩を叩かれる。
そしてゴミ袋や髪の毛の処理を始めた刈屋を余所に、真木達や天野、夢野が改めて僕を囲んだ。
「松坂君…。」
「ヤバい…!刈屋天才!」
皆のテンションが上がっているのが分かって涙が止まる。
何?何?どうなってんの!?
「うん…格好良い。似合ってますよ。」
天野が嬉しそうに笑う。
本当に?本当に?
ドキドキしながら差し出された鏡を見た。
「っ…!」
良かった…!
変じゃない…!
と言うか…確かに似合ってるかも…。
「刈屋さんありがとう。夢野君も…申し訳ありませんが、ここからは親衛隊だけで話し合いを…」
「あぁ、ゴメンゴメン!野次馬みたいに居座っちゃって!」
「いえ、追い出すようで申し訳ないです。」
「気にすんな!じゃあまた教室でな!」
困ったような天野を安心させるためなのか、夢野はニカッと笑って去っていった。
「じゃあ俺も帰って報告しますか…と言いたい所だけど、話し合いは聞かせてもらう。どう見ても喧嘩するには人数が合わないからな。」
「刈屋さん…喧嘩じゃありません…。」
「まぁまぁ、言葉の文じゃん。」
どうやら刈屋は、アンチ天野派と呼ばれる僕らと天野一人じゃ不公平だと言いたいらしい。
それもそうだけど、アンタ風紀の人じゃん。
それこそ不公平だよ。
「ハァ…見てるだけですよ?口出し厳禁。」
「へいへーい。」
適当な返事をした刈屋に不安を覚えながらも天野と向き合う。
さっきまでは混乱してたけど、落ち着いた途端に緊張感が増してきた。
「では…単刀直入に聞きますが、君が主犯ですか?」
「…違う。言い出したのは姫路だよ。」
「友人ならそれを止めるべきではありませんか?話に乗った時点で同罪です。」
俯いて黙る。
同罪なんて、分かってる。
「そんなに僕が気に食わないと?」
「あぁ…気に食わないね。本当は僕が隊長になる予定だったんだから…。」
理由なんていっぱいありすぎて一言じゃまとまらない。
だからありきたりな理由を口にした。
すると天野は、僕の名前を呼んで顔を上げさせた。
天野の綺麗な瞳と視線が交わる。
そしてフワリと優しく微笑んで、こう言った。
「分かりました。僕は今日限りで隊長を辞めます。」
「っ…そんな簡単に!」
驚きで声を荒げる。
ちょっと言っただけで簡単に言った。
なんで!?
「もし君が隊長という立場を理解しているなら次期隊長に任命しますよ。」
「いや、そんな事より…!」
「隊長になる条件は常に中立の立場で居れることです。私情を挟まず、どんな問題も解決に導かねればなりません。」
「天野!聞いて!」
「そもそも僕が並木先輩から指名された理由は僕が平和主義なのを知っていたからです。何より、高校から入学した僕は学園の色にそこまで染まっていなくて良いと考えたんでしょうね。」
また始まった。
天野は僕の話を聞かずにツラツラと言葉を並べ立てた。
みんな天野の話を真剣に聞いている。
でも僕は悲しくなった。
よく分かんないけど、めちゃくちゃ悲しかった。
「松坂君。君は何があっても決して周りに流されずに隊員達をまとめて、どんなに理不尽な問題にも責任を持って謝れる自信はありますか…?隊長なんて所詮、謝るばかりのつまらない立場ですよ。隊長だから一番会長に近いとか、特別だとか、先入観でしかありません。」
「分かってるよ!そんなこと!」
「なのにこんな事態を起こしたんですか?」
「だから、だからっ…!」
一気に責め立てられて言葉が出てこない。
頭の中はグチャグチャで凄く混乱した。
「例えば君が親衛隊を抜けたとしても会長を好きな気持ちに変わりはないですよね?人を好きで居るのに立場なんて関係ない。そんなに簡単なものならこんな事起こさなか…」
「っ…天野の!そう言う所だよ!僕の話、聞けよ!!いい加減にしろ!!」
とうとう感情がパンクして、思い切り叫んだ。
ゼェゼェ肩で息をする。
僕の勢いに圧倒されたのか、天野は驚いた表情で固まってしまった。
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