06

「天野隊長、邪魔じゃないー?」

「…なにする気?」

「別に、天野隊長には何もしないよぉ?ただ僕らは天野隊長の言われた通りに動くコマになれば良いんだ。」


そう話を持ち掛けてきたのは姫路だった。

田代祥平に制裁を加え、全ての責任を天野に押し付ける作戦。

姫路が何故ここまで天野を嫌うのかは知らないけれど、僕の天野嫌いはこの時ピークを迎えていた。


『天野が居なくなるなら…。』


胸の中に渦巻くドロドロしたものを排除しなくてはと、僕はそう思った。

だって天野は隊長に相応しくないし、こんなのいつまで経っても状況は変わらない。

それならいっそ天野なんて消えてしまえば良いと本気で思った。

正直…この時には田代の存在なんてどうでも良くなっていたと思う。

生徒会の方々に囲われて一人特別扱いを受けていることは不愉快だけど、余りにも見慣れすぎて諦めの気持ちが強くなってきたと言うか…。

本人達が良いなら別に問題はないし、そこまで過剰にならなくても大丈夫かな、なんて考えていた。


「お前ら誰だよ!」

「さぁね〜、恨むなら天野隊長を恨んで。」


それでもその場の雰囲気に流されてしまった。

だって、打倒田代って行動してると楽だから。

何も考えずに天野への苛立ちを解消できる。


『元はと言えば田代が悪い。コイツさえ現れなければ平穏だった。天野とだって、きっと上手くやれたのに…。』


ほとんど八つ当たりだったけど、真木も姫路も皆も居たから怖くなかった。

だから暴行されている田代を見ても、これは罰だと思うばかりだった。


「何してる!!!」


正気に戻ったのはその時。

振り向くと、クラスメートであり風紀委員でもある神谷が焦ったように駆け寄ってくる所だった。


「君ら、制裁はしないように指示されてるはずだけど。」

「いーえ。これは天野隊長のご指示通りです。」

「……嘘。」

「嘘なわけない!ほんとだよ!」


ドキドキしながらも言い切る。

マズイ…とは思ったけど、こうなれば当初の予定通り突き通すしかないと思った。




僕らは風紀に連行された。

僕達の前には風紀メンバーと生徒会の方々が着席する。

思っていたよりも大事になって、内心凄く動揺した。


「主犯は誰だ。」

「天野隊長です。」


それでも僕は動揺を悟られないように何を聞かれても天野に責任があると言い切った。

ただ計算外だったのは天野が呼ばれてしまったこと。

天野が部屋に入ってきた時なんて緊張がピークに達していた。


「失礼します。」


でも、その時は別の意味で驚いた。

天野は派手なスウェットに眼鏡をかけて、いつも整っている髪は無造作な、どこか抜けている姿だった。

普段はコンタクト?とか、まさかのヤンキーファッション?とか色々思ったけど、もっと驚いたのはその色気だった。


「うちの隊……姫路まで、何かやらかしましたか?」


掠れた声でそう言い、僕らの顔をゆっくり確認していく。

一瞬目があった時には見たことがないぐらい鋭い目つきで見つめられ、反射的に心臓がビクンと跳ねた。





「…と、言っているが?」

「っ…」


天野に見とれすぎて話を振られていることに気付けなかった。

そこから僕の意識はハッキリとして、再び天野に責任をなすりつける。

すると鳴海君に疑惑をかけられた天野は、荒っぽく頭をかいて「困りましたね」と溜め息を零した。


「僕の責任です。」


そんな天野のちょっとした仕草にも目を奪われていると、今度は天野が予想外の発言を始めた。


「つまり、主犯であると認める訳だな。」

「いえ、僕は主犯ではありません。が、これは僕の連絡ミスが原因だと考えています。」


天野は無茶苦茶な言い分を話し、自分どころか僕達でさえも責任逃れさせようと仕向けてきた。

当然、皆信じられないような表情を浮かべている。

だって僕でさえもビックリしてるんだから相当な言い訳だと思う。

そして天野の凄い所は、主張だけで終わらせないことだった。


「土下座。早く。」


天野は僕らに土下座と謝罪を強要した。

その冷たい視線と声に圧倒された皆は言われるがままに行動し、田代に許しをもらう。

不本意だけど状況が良くなったのは確かで、天野の力を見せつけられた瞬間だった。




あきゅろす。
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