05
その後も何度かタイミングを見計らって天野に話を持ち掛けた。
でも天野は何かと忙しそうで、どこか投げやりな言葉で僕をあしらうばかり。
結局まともに話を聞いてくれた事は一度もなかった。
「確かに出だしの失敗は痛かったと思う…!それにしても天野の適当さはヤバイでしょ!なにあの冷たさ!話にならない!」
「そうだね…僕もビックリした…。」
「やる気ないでしょ!と言うか、完璧に僕らのこと見下してるよね!?ほんっとに腹立つわ!」
天野に相手にされていないと理解してから、僕は益々天野が嫌いになった。
だって可笑しいでしょ?
何でも話す前に決め付けで物言って、最終的には忙しいからって逃げていく。
何がそんなに忙しいかは知らないけど、もう怒って良いレベルだと思う。
この時には真木に愚痴っても収まらないくらい苛々していた。
だから自然と天野に対する敵対心も強くなり、この苛立ちが周りに伝染していった結果、僕を筆頭にアンチ天野派と呼ばれる枠が出来上がってしまった。
アンチ天野派と呼び始めたのは僕らじゃない。
結成しようとしてした訳でもないし、自然と形になっていた。
本当はアンチ天野派なんて不本意なものを作り上げてしまった事が嫌だったけど、逆にこれを利用して天野に存在を示したいとも思っていた。
天野の中で僕らはきっと虫けらみたいな小さい存在だ。
それはとても腹立たしく、寂しくもある事実だった。
「ねぇねぇ聞いて〜?天野隊長ってね、毎日セフレと宜しくやってて寝不足らしいよ〜?」
「嘘!?ホントに!?」
「まぁ噂だけどねぇ。」
生徒会会計、青柳様の親衛隊隊長である姫路は、何かと天野の話題を持っている人物だった。
いつも話しかけてくるキッカケは天野で、天野がこんな事をしていたとか、天野にこんな噂があるとか、天野マニアかってぐらい天野の話を振ってきた。
そして姫路の話はどれも興味深く、僕と真木はウンウンと話を聞いていた。
「松坂君とこの隊長ってアバズレさーん?」
「はぁ?」
しかし、姫路の話はどれも信憑性が薄かった。
初めの頃はどの話題も信じていたけど、姫路の天野に対する負の感情が伝わってきて、ただの妬みだと分かった。
今回もまた信憑性のない噂かもしれないと思う。
それでも姫路の話は面白いから、いつも通り話を聞くことにした。
「まさか…うちの隊長が遂にやったの?」
「さぁね〜。でも我等が会計様に色目使ってる現場には遭遇しちゃったけどぉ…。」
「なにそれ!真木聞いた!?遂に天野の正体掴んだんじゃない!?」
「まさかとは思ってたけどまさか…姫路くん詳しく。」
それ本当かよ!と思いつつ、面白い内容につい笑みが零れてしまった。
あ、でも姫路は腸が煮えくり返るぐらい腹立たしいのかな?
だって今回は青柳様が直接絡んでるらしいし。
もし本当だったら申し訳ないけど、他人事だと面白かった。
「はい、隊長!」
月一の定例会議が始まるや否や、僕は速攻で挙手をした。
事の真相を掘り下げる為にニヤニヤしながら話を持ち出す。
「天野隊長は隊長という立場もわきまえず、昨夜会計の青柳様と逢い引きをしていたと聞きましたが!」
「……………は?」
僕の言葉を聞いた天野は、しばらく間を開けて、気の抜けた顔をした。
「は、ハハっ…!僕が…僕が?ふふ、まさか青柳君となんて有り得ない…有り得ないですよそれ。」
そして急に吹き出すように笑い、姫路を見ながら弁解を始める。
つまり結局は姫路の行き過ぎた勘違いだったと言うわけだ。
んだよ…!
「むかつく!」
「松坂くん落ち着いて…、とりあえず座ろう?」
ソッと宥めてくる真木に言われた通り、着席する。
やっぱり姫路は信用出来ない。
話を聞くだけなら面白いけど…実際に嘘だとムカつくな。
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