04

悔しいなりにも天野を認めようと思い始めた頃だった。

ハルマゲドンの如く現れたのは、田代祥平という奇抜で如何にも下品そうな転入生だった。


「天野…アレはヤバいんじゃない?」

「…と言いますと?」

「だってアレはないでしょ。注意すべきだって…。」


僕はすぐさま天野に話を持ち込んだ。

だって田代の奴、転校してきた早々に鳴海君や他の人達とも馴れ馴れしく絡み始めたんだ。

外見はアレだし、なんかもう下品極まりない。

正直色恋関係なく、生理的に受け付けない人種だった。


「彼方…!」

「あ、田代君。」


噂をすれば何とやら、田代祥平が今度は天野に馴れ馴れしく話しかけてきた。

お前何?

自分の外見鏡で見たことないの?

どんな心情なの?

僕はどん引きして、こちらへ駆け寄ってくる田代を信じられない目で見た。


「何してるんだよ?友達?」

「はい。クラスメートで会長の親衛隊の副隊長でもある松坂君です。」

「松坂!俺は田代祥平!宜しくな!」


田代はニカッと笑って手を出してきた。

僕は驚きと嫌悪感で後退り、助けを求めるように天野を見た。


「だそうですよ?」

「っ…!」


信じられない!

だって天野は助ける所か笑顔を浮かべていたんだ。

その目は「握手してあげなよ」と語りかけてきて、その瞬間、裏切られた気分になった。


「君らは友達なの…?」


かなり引き気味に聞く。

どうか天野がコチラの人間であることを願った。


「まぁ一応な!」

「…です。」


この答えで崖から落とされた感覚に陥った。

僕は天野を少しでも認めようと努力をしてきたのに…。

いや、そうしなくても格好いい、綺麗だっていつも思っていたんだ。

それに、並木隊長に見込まれた天野になら隊長を譲っても良いかも…なんて最近は思い始めていただけに、余計ショックは大きかった。

この出来事で天野への評価が随分と下がり、疑心ばかりが募っていった。




「ヤバくない?」

「ヤバいね…。」


その日の夜、僕は真木に田代の件や思いの丈を全て話した。

するとやっぱり真木も同意してくれて、天野は可笑しいという結論に至った。


「普通あんなよく分からない奴と友達になる?しかも礼儀がないし汚らしいし…。」

「ホントだね…。生徒会の皆様といい天野隊長といい…まるで毒に犯されてるみたい…。」

「もうこうなれば僕らが天野の目を覚ましてやるしかない!だってこのままじゃ僕らの親衛隊は駄目になるよ!」

「松坂くん…そうだね…!やろう!」


僕らは話し合って、翌日天野に話を持ち寄った。




「天野。やっぱり田代への対応はしっかり話し合おう。」


僕らは最初の台詞にこれを選んだ。

この台詞に天野がどう答えるかをドキドキしながら待った。


「ただの友人でしょう。僕達が彼の交友関係を規制するのは可笑しな話だと思います。」

「友人であるにしてもアレはないでしょ!品がないし変だしキモイし鳴海様に相応しくない!ね、真木!」

「そうだね。可笑しいのは隊長だよ。もっと僕らの気持ちを尊重するべき。違う?」


ハァ…と溜め息を吐き、そして呆れたように話し出す天野につい切れてしまった。

ヤバイ、冷静にならなきゃ。


「では会長や編入生君の気持ちはどうなるのかな?合う合わないを君達の物差しで測って彼らに押し付けるのはただの我が儘でしょう。」

「違います。僕らは会長様が馬鹿にされるお姿をこれ以上見たくないだけです。」

「…と言うか天野、今の状況分かるよね?今会長が陰で何て言われてるか…。それに僕らだって嫌なこと言われてるし…。」


僕は思い出して嫌な気分になった。

今話した通り、鳴海君は一部の生徒に陰で馬鹿にされて笑われていた。

そして更に、あんな奴に負けた僕達を笑っているのだ。

この件で僕らは本当に嫌な思いをしている。

僕がそうなんだから、天野だってきっと気持ちは同じなはず。

鳴海君も僕ら自身も馬鹿にされて、内心傷ついているんだ。

そう信じてやまなかった。


「では松坂君、キミ今日から真木君と友人関係を解消して1人で学園生活を送ってみて下さい。その前に僕は真木君を制裁をするよう誰かに指示をすれば良いのでしょうか?」

「っ…こんな時に何の冗談!」

「君達が会長達にしようとしている事は、今の冗談のようでとても愚かな事なんですよ。分かりますか。」

「だって僕達!陰で馬鹿にされ…」

「だってじゃありません。僕は急ぎの用事があるのでもう失礼します。変な気は起こさないように。」


忠告だけを残して去っていった天野と、ポツンと立ち尽くす僕ら。

天野の言い分は理解出来た。

でもそれ以上に分かり合えない事も分かった。

天野は…僕の話を聞いてはくれなかった。

まるで僕らを無理やり抑えつけように…彼の中の正義を振りかざして去っていった。


「真木…ごめん。」

「ううん。僕も。」


僕らに説得力がないのか、ただ会話の持って行き方が下手なのか…。

多分、今のは僕らも悪かった。

それにしても、天野だって“決め付け”が酷いよ。



天野にあって僕にないものもあるけれど…。

僕にあって天野にないものもどこかにあるのだと、この時知った。




あきゅろす。
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