02


「松坂君とこの隊長ってアバズレさーん?」

「はぁ?」


僕の発言に松坂君が奇妙な顔をした。

彼は会長親衛隊の副隊長。

次期隊長候補に一番近いと言われていながら、横入りしてきた天野にその座を奪われた可哀相な子。

さながら悲劇のヒロインって所かな?

一応平穏思考らしい天野の裏で、悲劇のヒロインであることを武器に権力を振るっているらしい。

何を考えているか分からない天野と違い、松坂君の分かりやすい性格は好感が持てる。

隊は違うものの、お互い顔を合わせれば話す程度に交流があった。


「まさか…うちの隊長が遂にやったの?」

「さぁね〜。でも我等が会計様に色目使ってる現場には遭遇しちゃったけどぉ…。」


思い出して舌打ちが出そうになる。

ダメダメ、可愛く健気な姫路で居なきゃ。


「なにそれ!真木聞いた!?遂に天野の正体掴んだんじゃない!?」

「まさかとは思ってたけどまさか…姫路くん詳しく。」


松坂君に呼ばれた真木君とは、松坂君と同じく次期副隊長候補と呼ばれたやっぱり可哀相な存在だった。

二人は親友らしく、いつも一緒に居る。

その松坂君と真木君の興奮気味な声に少しだけイラッとした。

色目を使われたのが自分の所の会長じゃない事に加えて、憎い天野彼方だからって喜びすぎ。

こっちは喜びよりも憎悪の方が勝っているのに。


「そのまんまだよぉ。青柳様を誘惑してたって感じ〜?」

「マジか…!ね、いつ?」

「……昨夜。僕が声をかけたら逃げるようにどっかに行っちゃったんだぁ…。」

「っ…」


表情に影を落として心底傷つきました、という顔をしてみる。

今聞いた情報で頭がいっぱいらしい松坂君は気が付かなかったみたいだけど、真木君は反応してくれた。

後は好きに解釈してくれれば良い。

大いに仲間割れしてよ。




「それ何かの見間違いじゃないのか?」


いい具合に進んでいた会話に入ってきたのは、生徒会副会長の隊長、夢野君だった。

爽やかな男前である夢野君の顔が目の前にあって一瞬でもドキリとする。

綺麗系が好みな僕でも格好良くて困るな。

夢野君はいつも距離が近い。


「僕、嘘ついてないもん…。」

「分かってるよ。だけど俺には天野がそんな軽い奴に見えない。きっと姫路の見間違いか何かだよ。」


苛々する。

こんな所でも天野を支持する声があった。

今更だけど、僕達は各親衛隊幹部である隊長、副隊長による集会の場に居る。

しかも呼び出したのは天野彼方で、そのくせ一番遅いんだから鬱陶しい。

それでも僕がこんなに面倒臭い集まりにわざわざ出向いたのは、天野の噂を広めてアンチ天野を増やす目的を遂行する為だった。


「僕、…そんな、夢野君まで僕のこと、」

「っ…夢野くん。姫路くんだって辛いんだから責めるような言い方はやめて。」

「真木くん…。」


真木君は表情が少し乏しいけど、感情は豊からしい。

思い通りに味方してくれた。


「あぁ〜…姫路ごめん。そんな責めるつもりはなかったんだけどな…。」


頭をかいて謝る夢野君は一言で例えるなら良い人だ。


「篠山はどう思う?」


ここで夢野君は書記隊長の篠山君の顔を覗き込んだ。

顔を覗き込むのは癖みたいだけど、それって質が悪い。


「何が?」

「天野のこと。」

「…だから?」

「…あぁ、聞いてなかったのな。天野が青柳会計誘惑してたかもって話。」

「へぇ。」

「……うん。だよね。」


夢野君は笑ってとうとう諦めた。

篠山君は凄い無口な上に他人に興味がない。

そして書記である城本様に引けを取らない男前で、親衛隊隊長をしている事自体が不思議だった。





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