03


「天野。下級生が鳴海様に近付いていた件どうするの?」


幹部の引き継ぎが行われてから最初の定例会議。

僕は天野を品定めする気持ちで手を挙げていた。

その頃は進級したばかりで、新入生が鳴海君との距離をわきまえず、近付いてはきゃっきゃしている光景が目立っていた。

あれはもう見ていられないし、僕らにだって我慢の限界があった。


「親衛隊に勧誘するのはどうでしょう。」

「それはつまり…」

「制裁ではありません。勧誘です、勧誘。」


呆れたように笑う天野にカチンとくる。

皆で囲んで注意すればすぐ終わる話なのに、あくまでも勧誘するだけだと主張した天野に腹が立った。


「入りたくないって言ったらどうするの?」


恐らく僕と同じような疑問を持った真木が責めるように発言する。

僕らは全員、天野が何を言うのか注目した。


「入りたくない人は放置です。当たり前でしょう。強制するものでもありませんし。」

「じゃあ…!後輩が空気も読まずに近付いてるのを見てみぬフリしろってこと!」

「そうです。鬱陶しい場合は会長本人が注意するなり僕らに相談してくるでしょう。」

「だ〜か〜ら〜!!そうなる前に対応して鳴海様の手間を省くのが僕らの役目なの!何で分からないの!」


なかなか理解を示してくれない天野に声を張り上げる。

何で分からないかな?

天野は馬鹿なの?

単細胞なの?


「重い。」

「は?」

「本当に重い…。」


天野は目を細めて僕の目を見た。

そして沈黙の後、綺麗な笑みを浮かべてこう言った。


「君の愛は重いですね。会長のため?自分のためでしょう。会長が求めていない事を“空気を読んだつもり”になって行動を起こして何になります。空気を読むべきなのは我々ですよ。違いますか?」


天野は最後にその場にいた全員に問いかけた。

僕はまさかそんな反論をされるとは思わずにドキドキした。

少しでも図星だと思ってしまったんだ。

そして自分の考えが重いと言われた時に、並木隊長の言葉を思い出した。


『例えば親衛隊の仲間の誰かが鳴海と仲良く笑っていたとする。その時君は笑って喜んであげれるかな?』


笑おうと決めたけどそうじゃなかった。

僕と天野では根本的に考えが違う。

天野にはあって僕にはないもの、それを突きつけられた瞬間だった。





「天野。」


僕は会議の終了後、天野に声を掛けた。

ムカつくけど納得してしまった。

だからムカつくなりにも距離を縮めようと思ったんだ。


「何ですか?」


近くで天野の顔を見ると、本当に綺麗で見惚れてしまう。

流石は学校一の人気者で、やっぱり憧れる気持ちもあった。


「あの……、さっき……、」


僕は言葉が詰まった。

自分の気持ちをどう表現すれば良いのか分からなかったのだ。

するとまるで助け舟を出すかのように、天野が話し出してくれた。


「松坂君、先程はすいませんでした…。皆の前で言い過ぎましたよね。」

「え…?いや…僕も怒鳴てごめん…、必死になっちゃってて…。」


改めて話して分かったのは、やはり天野が良い人だと言うことだった。

外見が良ければ中身も出来ている。

並木隊長が任命したのも頷ける人材だった。


「天野はなんで生徒会じゃなくて親衛隊に入ったの?」


それはずっと聞きたかったことだった。

だって鳴海君を好きなら生徒会に入れば良い。

そうすればずっと一緒に居られるのに。

僕だったら絶対にそうする。


「生徒会に入りたくなかったから…ですかね。」

「なんで?せっかく鳴海君…鳴海様と一緒に居れるチャンスなのに。」


不思議に思って聞いてみれば、天野は暫く考えた後こう答えた。


「並木先輩が親衛隊に居たからですかね。」

「並木隊長…?」


僕はまさかと思った。

天野は鳴海様ではなく、並木隊長を好きなのではないかと。

すると僕の顔を見て考えが分かったらしい、天野が慌てて弁解を始めた。


「違いますよ。並木先輩は入学時からお世話になっていた憧れの先輩で恋愛的なアレではありません。」

「……。」

「いえ、そんな事はどうでも良いんです。ではもう行きます。」


天野は何かを誤魔化すように教室を出て行った。

何だろう…このしっくり来ない感じ。

でも、あの天野があそこまで慌てるのは凄くレアではあった。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!