08
これは今までのツケが回ってきたのだと思った。
お喋りで噂ばかり流して…だから今、一番好きな人に信用されてない。
「僕、青柳様の噂は流してません…天野隊長の噂だけです…。それもどうかと思いますけど…。今は本当に反省してます。」
「……。」
「本当なんです!言い訳とかじゃなくて、僕はむしろ青柳様の話を別の皆から聞いていて、本当に僕は聞いていただけだから噂は流してなくて、」
弁解すればするほど自分が汚い人間に思えてきた。
いくら弁解しようが信じてもらえるはずがないのに。
天野をどうこう言う前に、こんなにも醜い僕を彼が好きになるなんて有り得なかった。
自分でも信じられないくらい自己嫌悪してるんだから、青柳様はもっと信じられないだろう。
「噂は嘘だって皆に説明します…。」
もう僕にはこれぐらいでしか償う方法が見つからなかった。
何を言ったって意味はない。
でもせめて誤解さえ解ければ…青柳様は今より信用してくれるかもしれない。
「ごめんね…。正直君の話を皆が信じるか疑問だよ。」
「っ…頑張ります!嘘だって皆に言って回って…」
「わざわざ掘り返すような事しないでくれるかな!俺は平和に過ごしたいだけなんだよ!君たち親衛隊に振り回されるのはもう御免だっ…、」
「……、」
返す言葉がなかった。
もう分かり合えないのだと知る。
嫌に気分が悪かった。
だって今までの関係は青柳様が我慢して成り立っていただけで、本当は信用なんてまるでなかったんだから…。
「ごめんなさい…ごめんなさい、」
「謝ったってどうにもならない。君らのやってきた事はイジメと同じだよ、」
「ごめんなさい…、」
涙が出た。
きっと泣きたいのは青柳様の方なのに…。
でも、だって、僕にはもう謝ることしか出来ない。
何がキッカケで噂が広がったのかも分からないし、謝るぐらいしか償う方法がなかった。
「僕の村に狼少年なんて居ません。」
震える僕の手を握る手。
顔を上げると天野が僕を見ていた。
「僕と姫路君の連携で真実を本当にします。一人より二人の方が信憑性も高まりますし、何より僕は信用性がありますからね…誰かさんよりは。」
最後は挑発するように笑われる。
言葉が出なくて唇を噛んだ。
涙が馬鹿みたいに溢れてくる。
そうだよ、そうだよ…。
僕は狼少年で、だけど君は物語を簡単に書き換えられる神様なんだ。
ムカつく、なんで君が神様で僕は狼少年なの?
「…天野、隊長。」
「はい。」
「僕に、協力して下さい。」
僕は出来るだけ頭を下げた。
どうかこんな僕を救って欲しい。
今までは馬鹿みたいに張り合っていたけど、天野は別格だって分かった。
そんな無駄なプライドはもうどうだって良い。
お願いだから助けて欲しい…僕は嘘吐きだけど、今回の事は本当に知らないんだ。
「君は僕の村で捕らわれのお姫様なんですよ。」
「……え?」
意味不明な持論に思わず顔を上げる。
「だから僕らの姫を狼少年にはしません。村に必要な存在ですから。」
ふわり、天野のとても綺麗な笑顔を久々に見て…
僕は更に泣いてしまった。
安心して、天野の世界観がよく分からなくて…。
だけどその世界に僕が居て良かった。
僕の居場所があって良かった…。
「目立たないようにひっそりと広めていくので…青柳君も姫路君を余り責めないで下さい。」
「……。」
「この件は僕から見ても親衛隊全体で自然と作り上げたものだと思います。僕も何度か親衛隊全体の事で理不尽に責め立てられた事があるので…姫路君だけが悪いとは言いたくありません。」
「良いよね、そうやって他人の所為に出来るんだから…、」
「そうですね…。だからこそ組織の上に立つ者として最低限の対応をしたいと。僕だって平穏に過ごしたいんですよ。」
ああ言えばこう言う。
天野は口が上手い。
「僕達も親衛隊に振り回されている一人です。だからこそ助け合いたいと思います。」
「…分かってるよ。俺も頭にきてて姫路クンに八つ当たりしただけ。君を責めてどうにかなる訳でもないのに…ごめん。」
「いえ…僕の方こそごめんなさい。僕がもっとまともな人間だったら、今みたいな状況が起こってなかったかもしれないのに…。」
最後の最後まで青柳様は笑ってはくれなかった。
だけどやっぱり、僕を気遣ってくれる優しさがそこにあって、これ以上の救いはないと思った。
「姫路君。君はお姫様らしく笑っていて下さい。」
「はい…。」
つくづくと思う。
こんな優しい人になりたいと。
そして僕は天野彼方をまたちょっとだけ嫌いになって、最後の最後に笑ってしまった。
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