06

「それでは青柳君、誤解は解けましたか…?」

「うん…取り乱して申し訳ないよ…ホント、」

「仕方がないです。事情があったんですから。」

「天野クン!」


いたずらっ子のように言う天野に青柳様がまた焦る。

落ち着きは取り戻せたけどやっぱり辛い。

僕の目の前でイチャイチャするのは止めて欲しいな…。


「青柳様と天野隊長は付き合ってるんですか?」


僕は思い切って聞いた。

ドロドロと嫌な気持ちが湧き出てきて、いつも通り上手く笑えない。

多分無表情だと思う。


「え!?」

「付き合ってませんよ…この学園の人は思い込みが激し過ぎる。」

「じゃあ…片思いとか。」

「いえ、僕らは本当にただの友人です…。」


天野もどこかグッタリしたように言った。

何かと勘違いされているのはよく知っている。

だって今まで天野の噂を流した犯人は僕だから…。


「でも、だったら…、」


青柳様は誰に嫉妬したんだ。

天野だけへの特別扱いって何が原因?


「城本出番だ…行け。」

「おいおい。何も聞いてないぞ。」


今まで黙って聞いていた篠山君が城本様に謎の指示をする。


「そうですよ。城本君がボールを蹴れば全部上手くまとまります。はいどうぞ、パス。」

「…いやいや、分からんぞ。比喩が過ぎる。」

「これだから鈍感は…。そう言えばお前…、昔から鈍感だったな…。」

「でしょうねー。まぁそこが甘酸っぱくて良かったんですけれど。」

「分かった、お前らに馬鹿にされてるのだけは分かった。」


篠山君、天野、城本様…この三人の会話を聞いて、仲が良いのが伝わってくる。

この三人で恋バナなんてしてたらしいけど…なんとなく納得した。


「駄目ですね。もうこれは秘策を出すしかありません。」

「っ…天野!お前またバリカンなんて…、」

「どれだけトラウマなんですか。違いますよ。」


そう言って天野は立ち上がった。


「邪魔者は退散しましょう。」

「なるほど…分かり易いな。」

「あの!」


篠山君が納得して立ち上がった所で挙手が入った。

皆が一斉に椿様を見る。

なんとも言えない表情をしていた。


「結局の所、天野君と篠山君と城本が実は仲良しで、それを城本と天野君が付き合っているのだと勘違いしたのが青柳で…。姫路君が泣いていたのは天野君への行き過ぎた憧れ…?ということですか?」

「まぁ、そうですね。」


代表して天野が答える。


「では風紀に報告しなくても大丈夫と言うことで…。」

「はい。巻き込んでしまって申し訳ないです。」

「いえ…まぁ、何だか色々と驚愕で…とても興味深かったです。」


椿様は気を使ってそう言ったみたいだけど、顔には面白かったと書いてある。

普通はそうだろうね。

他人の不幸は蜜の味…なんてよく言ったものだ。


「にしても青柳は馬鹿だなぁ。城本が君を好きなのは明確じゃないか。」


それは突然の暴露だった。

一瞬空気が止まる。

理解するまでに時間が掛かって、顔を真っ赤にした青柳様と、口をパクパクさせる城本様を見てようやく言葉の意味を理解した。


「椿!お前はっ…!」

「え…?だってそうだよね?生徒会で毎日一緒だし流石に分かるよ。」

「いや…待てよ、お前!」

「まぁまぁ城本君落ち着いて下さい。えっと、では…退散しましょう。ほら、姫路君と泉川君も立って下さい。」


僕は篠山君に、椿様は天野に押されて退散となる。

つまり…城本様が以前より公言していた想い人は青柳様で、青柳様が嫉妬した相手は…。

城本様…?


「泉川君、さっきのはちょっとマズかったですね。」

「何故?君達も気がついていたんでしょう?あの二人、両想いなのに全然くっつかないんだ。しかも最近はギクシャクして距離を置くものだから見てられなかったよ。」

「あー、気持ちは理解出来ます。でも城本君も自分の口から言いたかったでしょうに。」

「彼は一度告白してるよ。ただ回りくどいと言うか…分かり易いくせに分かり辛い言い方をするんだよな。」


何かを思い出しながら椿様は苦笑いした。

知らなかった。

僕は何も知らなかった…。


「言っちゃたものは仕方がないな…後は上手くまとまるだろ。」

「そうですねー。もしこれで下手なんて打ってたら、本当に僕のバリカン技術を見せつけるかもしれません。」

「城本泣くぞ…。」

「青柳君の為です。僕的に村一番のマドンナですから。」


篠山君が笑い出した。

僕は思う。

なんで和んだ空気になってるのって。

だってだって、一番肝心な事が分からなかった。


「ねぇ…。」

「何でしょうか?」

「青柳様は結局、僕を嫌いなのかな?」

「……。」


そう。

僕に対する暴言の真相が分からなかった。

だから今すぐにでも安心が欲しくて皆に問い掛けたけど…。

椿様は渋い表情で僕を見て、篠崎君は答えを求めるように天野を見た。

そんな事ありませんよ、ただその一言が欲しい。


「本人に聞いてみなければ何とも言えません。また後日聞いてみてはいかかでしょうか?」


だけど現実は残酷で、僕の求める答えは返ってこなかった。

この後更に気分が悪くなったのは言うまでもない。




あきゅろす。
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