05
「お前の所為だろ!」
「え……?」
「何で皆天野なんだよ!いつもそうだ!むかつく、だから嫌いなんだ!」
僕は顔を上げて天野を睨みつけた。
可愛い姫路?
そんなもの知らない、どうだって良い。
可愛いくしたってどうせ僕は悪者だし、作戦を立てたってどうせ天野には勝てない。
だからもうどうでも良い。
「知ってますよ。」
「っ…、」
「君が僕を嫌いだなんて皆知ってます。今更でしょう?」
僕は返す言葉が出なくて唇を噛んだ。
悔しい、悔しい!
傷つけたいのに傷つけられない。
だって僕の言葉はいつも天野の心に響かない。
「いつも!善人面してっ、余裕で、なにそれ!キモ!」
「すみませんね。」
「そう言う態度が嫌いなんだよ!何で特別扱いされてる訳!?僕の方が絶対に可愛いのに!」
「そうですね、確かに君の方が可愛いと思います。でも僕は特別扱いなんて受けてませんよ?毎日普通に授業を受けて、毎日それなりに過ごしているだけです。」
僕はまた唇を噛んだ。
何で分かってくれないの?
君は特別なんだよ…君だけは特別なんだよ…。
誰よりも綺麗で、だから嫌いで、大嫌いで。
誰よりも誰よりも…。
理想的だった。
「天野を始めた見た時、綺麗だと思った…。」
俯いて泣きながら話す。
もう無理に張り合う気力なんてない。
声を張り上げるなんてらしくないこと…僕には疲れた……。
「そんな事ありませんよ。」
「そうなんだよ。君は綺麗だよ。僕の理想だった。知れば知るほど自分がなりたい理想的な人間だった、」
部屋はシンとしていて、時計の音と僕が鼻をすする音だけが響く。
小さな音が大きく聞こえる今の現状が嫌だった。
嫌な静けさだ。
「でも僕は君にはなれない…だから消したかった…、」
「…僕が消えれば姫路君は幸せになれますか?」
先ほどまでの強い言い方ではなく随分と柔らかい声で言われる。
「分からない、考えたこと、ない、」
「なら、考えて下さい…。」
「もし幸せだって答えたら…?」
「僕も考えます。学校は辞められないですけれど、別の方法を。」
もし天野が居なくなったなら…僕は幸せになれるのだろうか?
漠然と考えてみる。
天野が居なくて、それでも僕はひとりぼっち。
僕には友達が居ない。
何も変わりやしない。
考えてみれば僕が誰かと話す時はいつも天野がキッカケだった。
天野がこんな事してたとか、天野はこんな人物じゃないかとか…。
考えれば考えるほど僕にとって天野彼方は大きな存在だった。
「幸せにはなれない。むしろ天野が居たからこそ学校に行ってた気がする…。」
「そうなんですか?」
「…気がするだけ。でもやっぱり嫌いだ。」
憧れが強い分、好きな所を見つける度に嫌いになる。
だって君になりたい。
こんな僕じゃなくて、君みたいな人になりたい。
「嫌いで良いですよ、別に。姫路君の気持ち僕にも分かりますから…。」
「わかるものか、」
「いえ…分かります。僕にも憧れの人が居るんです。」
ビックリして顔を上げる
困ったような、気まずそうな表情をしていた。
「僕だってその人に成りたいですよ?だけど成れなくて、その人の凄い所とか、好きな所を見つける度に悔しくなって…ちょっとだけ嫌いになるんです。」
「僕と…一緒、」
「だから言いたい事は我慢せずに直接言って下さい。今までみたいに周りから攻めたって得るモノは何もありませんから。」
今までとは…この間の制裁騒ぎや今日の事。
それに噂話とか…そう言う類の事を言っているんだ。
僕がやらかしてきた最低な悪事の数々…。
「…ごめん、今まで。本当は、この間の制裁…、」
声が震えてきた。
それでもいっそ全てを吐き出してしまいたかった。
僕が起こした浅はかな行動の全てを。
「気付いてましたよ。だって君だけ隊が違うじゃないですか。分かり易くて本当に馬鹿ですよ。」
「っ…馬鹿にして!」
「いえ…ただ、僕なんかの為に将来を棒に振るのは馬鹿らしいでしょう?野々村君は短気だから退学の可能性だってありえました。」
「……。」
「正直あの時は腹が立ちましたけれど…松坂君や真木君に何かと噂を吹き込んで、立ち向かってくる君達は案外面白かったです。」
困ったように天野が笑う。
そこまでバレていたなんて…全く気づかなかった。
僕の作戦なんて全部お見通しだったって訳だ…。
「最悪、だから嫌いなんだよ。」
「知ってます。」
もう涙も枯れた。
馬鹿馬鹿しい。
だってだって。
つくづく思ったんだ。
僕は君には勝てない。
天野彼方は敵にする相手じゃないって。
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