05
「あの…俺は何故呼ばれたのだろう。」
「恋バナをするんですよ。」
「恋バナ…。」
城本は訳が分からない顔をする。
楽しいのは俺達だけ。
それが余計に楽しかった。
「城本君の好きな人が分かりました。」
「っ…!」
城本が目を見開く。
当然だろう。
まさか天野にそんな事を言われるなど、夢にも思わなかったに違いない。
「大丈夫ですよ。誰にも言っていないので。」
「俺をどうする気だ…。」
「いやいや、どうもしませんよ。」
「お前…怖い。バリカン事件のことトラウマなんだからな。俺を脅したって何も出ないぞ。」
天野は思い出したように笑い出した。
俺はよく分からず、頭にハテナを浮かべる。
バリカン事件…なんだそれ。
そんな事件あったか?
「あれはジョークですよジョーク。ただ今回は純粋に好奇心でですね…」
「好奇心なんだな…。しかもあれジョークじゃ済ませないくらい怖かったぞ。」
「まぁまぁ、結果的に松坂君の髪型も決まりましたし結果オーライですよ。」
「あのなぁ…。」
城本が溜め息を吐く。
何となく思い当たる事が見つかった。
天野が松坂の髪の毛を切ったアレだ。
正直俺も今の髪型の方が似合ってると思うので、確かに結果オーライかもしれない。
「それで…どうしたいんだ。」
「いやぁ…今、積んでるでしょ?」
「……。」
「今が丁度押し時ですよ。伝えたかったのはそれだけです。」
ふわっと楽しそうに笑う。
天野には全て分かっているらしい。
流石としか言えない。
凄くワクワクしてきた。
「何故分かる。」
「何故なら天下の天野だからです。」
俺は吹き出した。
昨日は否定したくせに、もう自分のものにしてる。
「平民なんだろ…?」
「君達が?」
「うざい。」
あー、天野ってこんな感じなんだ。
腹の底から可笑しい。
この学園は見てくれとか立場にうるさい。
だからジャージをきて教室を出て行った天野を見た時、凄く興味が湧いた。
きっと見てくれの悪い田代に興味を持った、生徒会の連中と似ているのかもしれない。
「それで天下の天野。城本の相手は?」
「教えるな天野。天下かなんか知らんが止めろよ。」
「もちろん!……言いませんよ。」
「…言えよ、天下の天野はその程度か。」
「まぁまぁ、僕の村は平穏に築き上げたいので。」
本当に面白い。
城本はそれどころじゃないっぽいけど。
楽しめる余裕がある現状にもっと楽しくなってきた。
「告白はしました?」
「…いや。」
「しましょうよ。」
「いい。アイツには好きな奴が居る。」
「そう本人が言いました…?」
「言ってないが…そうだろ。明らかにアイツは…」
分からないな。
アイツって誰だ。
城本の周りに居る人物と言えば生徒会の連中と田代ぐらいだ。
まさか、田代…?
「俺、分かったかも…。」
「!?」
「いや、言わないけど…多分そうかもな。」
城本が驚く。
何だか面白い。
天野の気持ちがよく分かった。
顔に出やすいタイプだし。
「あーあ。城本君も彼も分かりやすいですもんねー。」
「…だったら分かるだろ?アイツには好きな奴が居る。」
「まぁ分かりますけど…色々と違いますよ。」
何が何だか。
つまり、田代には好きな人が居る訳だ。
…となれば生徒会の連中か。
鳴海…ありえる。
泉川…ありえる、か?
青柳…ありえそう。
城本…ありえる…かもな。
いやいや、だって今、天野は何か確信を持って言っていたはずだ。
そうか、分かった…。
田代は城本が好きなんだ。
答えはもうこれしかない。
「俺には全てが解けた。」
「…篠山、何も言うな。」
「もちろん。」
俺は多分、凄く良い笑顔を見せたのだろう。
城本が不満げな顔をして、もっと楽しくなってきた。
「城本って面白いのな。」
つくづく思う。
もっともっと楽しい日々になれと。
俺はフと天野の石鹸説を思い出して、一人で密かに笑った。
←
無料HPエムペ!