01
つくづくと思う。
僕は運が悪いって。
一目見た瞬間に一目惚れした生徒会会計の青柳様。
彼の親衛隊隊長に就任出来たまでは完璧だった。完璧だった、はずなのに…
一体僕に何が足りないのか、青柳様は一向に僕を抱いてくれない。
甘い雰囲気になる気配さえ感じられなかった。
彼が僕に与えてくれるのは歯痒い優しさばかりで、尽くしても尽くしてもそこに熱が生まれる事はなかった。
正直僕はかなりモテる。
青柳様がこんなに綺麗な僕を好きにならないのは可笑しかった。絶対に可笑しいと思う。
「…有り得ない。」
ある日、とても綺麗でとても優しい青柳様が"誰か"と話していた。青柳様は照れるようにはにかんでいる。
「なんでアイツなんかと…!」
それは嫉妬なんて可愛いものではなく、その"誰か"への憎悪だった。
僕は彼を知っている。
天野彼方。
生徒会会長の親衛隊隊長、容姿端麗で学年トップの成績保持者。
会長よりも人気がありながら生徒会入りを辞退したことで有名になり、それで居て学園で一番謎の多い人物。
青柳様と天野彼方。
人の良さそうな笑みを浮かべる天野彼方とハニカむ青柳様…。
「青柳様。」
込み上げる憎悪を隠して僕は2人にニコリと笑いかけた。
許さない…僕からの好意を無視する青柳様も、青柳様を横取りしようとする天野彼方も。
「ぁ、」
青柳様がハッとして小さな声を漏らした。
ハニカんでいた僕好みの綺麗な顔が一瞬で強張る。
酷いな…酷い。僕が何かした…?
「姫路君こんばんは。では青柳君、僕は失礼致します。良い夢を。」
「うん。天野クンもねー。」
ヒラヒラ、困ったように笑う青柳様に胡散臭い笑みを返す天野彼方。
ムカつくムカつくムカつく。
僕は今まで出会った中でも天野彼方が一番嫌いだった。
しかし今回はいい加減我慢ならない。
「天野隊長と何をお話されていたんですかぁ?随分と花の咲いたお話のように見えましたけれどー。」
「…そーかなぁ?ふつーに世間話だよ〜。」
「そうなんですかぁ…。良ければ僕にもその世間話を聞かせ下さいよ〜。とても楽しそうで羨ましいです。」
「べ、つに…特別楽しい話でも無かったし…。」
青柳様は顔を逸らした。
照れるような…切なそうな表情にドキリとする。
こんな青柳様のお姿を見た事はない。
天野彼方…アイツがこんな表情をさているのか…考えただけで虫酸が走る。
「天野隊長とはどういうご関係で?親しげでしたが。」
思わず少しだけ可愛い僕が崩れる。
それでも笑顔は絶やさない。
「クラスメート…それ以上の関係ではないよ〜。」
少し考え込んだ後、困ったようにそう答えた。
嘘は言っていないように思う。
ただ、優しい青柳様だから天野彼方の立場を考えてそう発言している可能性も捨てれない。
「ただの知り合いにしては親しすぎますよー。天野隊長にハニカむなんて、彼に惚れましたぁ?」
「っ…ま、まさか!天野クンは本当に知り合い!と言うか…俺ほんとにニヤケてた…!?」
ソワソワと落ち着きがなくなってきた青柳様に嫌な気持ちが湧き上がってくる。
天野彼方、やっぱり嫌いだ。
「いえー、それほどぉ?」
「そっか…、気のせいかぁ…。」
少しでも取り乱した事が恥ずかしかったらしく、また困ったように笑う。
僕の答えに安心したような、そしてどこか残念そうにも見える仕草をして、それが僕に更なる追い討ちをかけた。
何故安心したのか、何故残念そうなのか。
考えるのも癪だった。
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