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「なに…今更そんな、僕が今までどんな思いで…!」

「っ…ごめん!」


椿が話しながら大粒の涙を流した。

込み上げてきたらしい。

俺は急いでティッシュ箱を渡した。


「ずっと馬鹿にされてるって…それでっ、僕の幸せ、奪っていって…、いつも柚希ばかり目立って、」

「それでも、好きだ。」

「っ…何だよそれ!僕は嫌いだから!」

「………それでも、変わらない。」


傷付いた表情で柚希が俯く。

これ以上は平行線だろう。

だけど、しっかり柚希の気持ちは椿に届いた。

後は椿が許す気持ちを持って、お互いに優しくなれるかどうかだ。


「今日はこれくらいにしよう。お前らには時間が必要だよ。」

「……。」

「柚希、椿と久々にちゃんと話せて良かったな。」

「…ありがとう。椿も、聞いてくれて嬉しかった。」


椿はもっと泣き出した。

当たり前だろう。

拗れている期間の会話なんて会話じゃなかったんだから。

お互いに理解して、相手に伝わっていなければ会話とは呼べないし、溝も深まるばかり。

だけどようやく伝わって、理解して、二人の会話が成立した。


「と言うことで柚希は帰れ。ハウス。」

「…居ちゃ駄目なのか?」

「お前ホント…椿大好きだな。きも。そして帰れ。」

「チッ…誰がこの状況で二人きりにするか。」

「あのな!俺が椿を襲う訳ないだろ?冗談でもあり得ないわ。」


和解した途端これだ。

でもこの会話、今まで話した全てが柚希の本音だって椿に伝えるには良いやり取りだと思った。

後は椿の気持ち次第。

俺は何だかスッキリして久々に気分が晴れやかだった。


「分かった。…椿またな。泣かせてゴメン。」

「っ…。」


俯いて泣いている椿の頭をポンポン叩いて柚希は立ち上がる。

やばい…柚希の優男バージョン気持ちわりぃ…。

ゲロ甘だわ…。


「そうやって余裕でっ…見下してる…!」


今の行動がお気に召さなかったらしい、椿が顔を上げずに叫んだ。


「余裕なんてない。」

「嘘だ、しんじない。」

「…いつも不安しかない。」

「…ウソだ。」


まぁ、喧嘩らしい喧嘩になってきたし良い兆候かな。

椿も思ったこと言えるようになったみたいだし…良かった良かった。


「あのな?椿。柚希は変態なんだ。だから今頭をポンポンしたのは椿に触りたかっただけなんだって。」

「僕は本気なのに…!こんな時に冗談言うなよ!」

「いやいやマジだって、だろ?」

「………。」

「下心、あったよな?」

「…ごめん。」


俺は吹き出して笑った。

素直な柚希は面白い。

と言うか素直過ぎる。


「嫌だったならゴメン。」

「本当は抱き締めたいだろ?」

「…ごめん。そんな状況になったら理性を保てない。多分ずっと離れたくなくなって離さない。」

「うっわ。」


重傷だ。

俺は急いで柚希を部屋から追い出した。

少しでも椿と同じ空気を吸っていたいのか、ちょっと抵抗されたけど、何だかんだ素直に帰っていった。


「何あれ。」

「君の兄だよ。」

「変だった…あんなの、ユズじゃない。」

「あんなのが君のユズだよ。」


椿がユズって言ってるのを久々に聞いた。

指摘したら言わなくなるだろうし、特別指摘したりはしない。


「…信じられないよ。」

「だろうな。俺もビックリだわ。度が過ぎる。」

「…嘘だって。」


複雑そうに言う。

きっと、今の状況でどこに気持ちを持っていけば良いのか分からないんだろう。

振り幅が大きすぎるし仕方がないよな。


「柚希は確かに勉強がよく出来る、でも馬鹿だ。反対に椿は勉強がちょっと苦手、でも賢い。」

「…なにその解釈。」

「馬鹿な柚希を許せる賢さが、優しさが、椿にはあるんだよ。きっと。」


懐かしい昔の三人を思い浮かべながら…俺は暖かい気持ちで微笑みかける。

するとムッと怒った顔でそっぽを向かれた。

にしても、どうやら涙は止んだようで、鼻をすする音が一回だけ聞こえた。


「だから馬鹿は嫌いだ。」


つくづく思う。

何だかんだで俺も、こいつら2人が大好きだなって。




あきゅろす。
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