06

「引いたか。」

「…と言うより納得。何でもっと前に言わないんだよ。」

「言ってどうにかなるものでもない。」

「いやぁ…まぁ。だけどなぁ…、うん。とりあえず話を聞こう。お前の部屋な。」


落ち着け俺。

それにしても改めて思い当たる節が多すぎる。

まず喧嘩の原因、柚希の我が儘とは…柚希による椿への束縛だった。

椿がどこかへ行くと必ず着いてきて、何かをすれば必ず同じ事をする。

例えば習い事。

憶測だけど、柚希は悪い虫がつかないように着いていっただけに違いない。

でも椿にしてみれば、いつも着いてきていつも自分より良い成績を残す自信家の兄はさぞかし悪者に見えただろう。

そんなある日、友達とコッソリ遊んでいた椿の行動を知った柚希がキレて、遂には椿まで兄に対しての劣等感を吐露し、現状となった。

そっか、そうだわ。

コイツ…椿が大好きなんだわ。

そう言えば柚希が俺に冷たくしてきた時期って、俺と椿に恋人疑惑が出てきた時期とも重なってる。

だから俺にも冷たかったのか…。


「馬鹿はお前だ。」

「……。」

「やたら束縛する上に俺様だから嫌われるんだろ。」

「…やはり、俺は椿に嫌われてるのか…?」

「だろうな。」


今までの恨みも込めてそう言った。

三年間も悩んだ時間を返せ。

仲違いの理由が恋だったなんて…いや、兄弟と言う問題もあるが、それにしたって相談ぐらいして欲しいじゃないか。


「とにかくさ、柚希はどうしたい訳?兄弟として仲直りするか、それともこのままか。」

「…離れようと思う。兄弟なんて無理だ。」

「…分かった。」


俺は考えた。

あの柚希がここまで人に気を使うなんて相当ヤバい。

きっとそれくらい椿が大切で、椿をこれ以上傷つけない為にも離れようとしているに違いない。


「田代は椿にとって友達だよ…。兄弟だとか外見だとか、そう言うのは関係なしで付き合える友達なんだよ。だから大丈夫。」

「……ありがとう。」

「うむ。」

「椿は…誰とも付き合ってないよな?」

「あぁ…、それもないな。椿が不器用なのは知ってるだろ?生徒会と勉強で精一杯なんだ。浮ついた話なんて欠片もないよ。」


さっきは強めに出たけど、事情も事情だし柚希の不安を取り除くことにした。

きっと柚希には会話が足りない。

だから不安や思い込みで変な行動に出ちゃうんだ。


「懐かしいな…ゴメン、冷たく当たって。」

「ホントな。ずっと意味不明だった。」

「ゴメン…。」

「なぁそれより。告白しなくて良いのか?」


フと感じた疑問だった。

問題はあるにしろ、このままではまた同じことを繰り返し兼ねない。


「もう椿に嫌われたくない…。」

「でも椿はずっと勘違いしてる。なぁ、勘違いしたままお互いに避けるのと、告白してから離れるのとではだいぶ違うと思うけど。」

「気持ち悪いって思われる。だって兄弟だぞ?それに俺は…狂ってる。椿相手に欲情するんだ。」

「……決めるのは柚希だし、俺にはよく分からないし…、いい加減な事かもしれない。でも、柚希に馬鹿にされてるって思いながら過ごすのと、柚希に好かれてるって思いながら過ごすのってきっと全然違う。」

「俺が椿を馬鹿に…?そんな事したことないぞ。」


自覚はないらしい。

やっぱり椿の思い込みだった。

俺は昔の事を思いつく限り引き出して自分なりの解釈で説明した。

柚希は黙って聞いていて、段々と納得したように俯いていった。


「全面的に俺が悪いじゃないか…。」

「まぁ自分を責めてやるな。確かにお前が悪い。」

「…慰める気ないだろ。」

「自業自得でしょ。生まれもった環境が原因にしろ、ちゃんと反省しな。でも逆に改善点も見えてきただろ?」

「そうだな…。」


自覚を持ってもらった所で思う。

これは俺の感だけど、柚希は告白するべきだ。

何故ならば…椿の兄に対するコンプレックスは凄い。

いつも柚希中心の思考だし、何かと柚希を気にしている。

こんな相手に好かれたらきっと嬉しいだろう。

それに本当は、椿が柚希をそこまで嫌ってるようには見えなかった。


「誤解は解きたいな…。」

「だよな。」

「夢野、協力してくれないか。告白はしない。でもせめて、誤解だけでも解きたい。」

「がってん。」


つくづく思う。

なんだか色々面倒臭いって。

でもこんな苦労も悪くない。




あきゅろす。
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