04
俺と泉川兄弟は幼なじみだった。
昔は三人仲が良くて、いつも当たり前のように一緒に居た。
それがある日を境にバラバラとなって、今では椿も柚希も仲が宜しくない。
特に柚希が意味不明で…とにかく意味不明だった。
三年前、中学二年生の時。
兄、柚希の我が儘で二人が喧嘩となった。
すると椿が爆発したように兄を責め立てて、気がつけば埋められない溝が出来ていた。
それから二人はお互いを避け始め、俺は微妙な位置となった。
最初こそ二人の間を行き来していたけれど、高校に上がって椿の親衛隊隊長となったことをキッカケに柚希は俺にも冷たくなった。
難しくて複雑な話だけど…泉川兄弟は腹違いの兄弟だ。
兄の柚希が正妻の子供で、椿は愛人の子供。
だから椿は昔から兄の存在を何かと気にしていたし、そこら辺の事情が二人の仲に溝を作ってしまった。
「柚希か…しばらく話してないな。」
「話す価値もない。僕の事をいつも見下してる。」
「うーん…アイツはよく分かんねーよな。」
「分かってたまるか。第一アイツは僕から幸せを奪うのが趣味なんだ。本当にムカつく。」
「いたっ…!だから当たるな。」
八つ当たりに足を蹴られたので蹴り返す。
それをキッカケに机の下で見えない足の蹴り合いが始まった。
「あ!椿!ここに居たのか!心配したぞ!」
蹴り合いがちょっと楽しくなってきた頃、例の田代が生徒会御一行と風紀の野々村、柚希を連れてやってきた。
噂をすればなんとやら。
「お前…椿の親衛隊の!なんかしてないだろうな…。」
「してないしてない。俺は椿の幼馴染みだから手は出さないよ。」
何度か挨拶した時に顔を覚えたらしい、田代に警戒される。
俺は両手を挙げて弁解した。
「椿。夢野と一緒だなんて珍しいな。」
「……。」
「柚希こそ、最近は誰かさんに夢中なようで。」
だんまりな椿の代わりに答える。
珍しく柚希は弟の隣に進んで座った。
その時、反射的に立ち上がろうとした椿の腕を柚希が掴んだ。
「誰かに夢中なのは俺じゃなくて椿がだろ?」
「……離せ。」
「おーい。お前ら大丈夫か?兄弟喧嘩なんてするなよ〜。」
何も知らない田代が笑いながら言う。
そんな田代を気にしてなのか、椿は立つのを止めて大人しく座った。
同時に柚希の腕も離れる。
「柚希も珍しいな。わざわざ椿の横に座るなんて。」
「そうか?何も可笑しくないと思うが。」
「へぇ…。」
警戒しながら柚希を見る。
何を考えているのかまるで分からなかった。
「確かにお前らが揃うのは久々だな。」
俺の横に座った野々村が言う。
皆小学校からの同級生だし、そう思うのは普通だった。
「椿、顔色が悪い。もう行くか?」
「……。」
「ゴメン、俺らもう行くわ。」
椿の顔色が見る見るうちに悪くなってきた。
いつもは平気で人の悪口を言う癖に、柚希の前ではいつもこうだ。
全然強く言えなくて、昔から柚希の言いなりで…。
きっと愛人の子供という立場から強く言えない癖がついて、ストレス発散の仕方まで分からずに育ったんだ。
今ならそれが理解出来る。
「……。」
柚希が再び椿の腕を掴んだ。
このままでは動けない。
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