02

「わっ…夢野隊長!?」

「言いたい事はよく分かる。だけど賀川に聞きたい。もし昨日みたいな事件が起こったら賀川はどう対処する?」


昨日みたいな事件とは…天野のところの隊員達が"連絡の行き違い"が原因で田代に制裁を加えた件だ。

きっとあの事件を知らされた大半の人間は、天野に対して賀川のような感想を持っただろう。

だけど俺は思う。

天野だからこそ隊長達は『処罰なし』という異例の対応が下されたのではないか、と。


「どうって…ただの行き違いでしょ?仕方がない事なんじゃないかな?」

「それは可笑しい。だって天野は俺達の前で大々的に制裁禁止って言っただろ?それをどうやれば制裁しろに聞き間違える。」

「だからそれは…、その後に連絡とかで…」

「いーや。よく思い出してみろ。あのメンツ見たろ?皆アンチ天野派だった。」

「……あっ、」


ようやく気がついたらしい。

あそこは天野派と松坂派に別れていて、その中でも松坂派は昔からいる連中ばかりだから何となく雰囲気で分かる。


「その上姫路まで居た。アイツも天野に敵対心持ってそうだし、きっと裏がある。」

「でもそんな事、天野隊長話してなかった…。」

「多分アイツらの立場を守ってやったんだよ。だって、今まで平気で制裁してきたような連中が、あんなにも汐らしくしてるのって初めて見たし。」

「確かに…反省してるっぽかったよね。しかもガチのやつ。松坂さんとか泣いてたよね。姫路さんもやけに静かだった。」


昨日の集会は異様だった。

事件を起こした連中は珍しいくらい物静かで、しかも松坂は何故か髪の毛の一部を刈られてた。

真木が天野を責めていたのできっと天野の仕業に違いないが…。


「俺の憶測だけど、天野はわざと松坂の髪の毛を刈り上げたんじゃないか?」

「あれやっぱ天野隊長だよね…可哀想。」


賀川は思い出したのか、引いたような顔をする。

美意識の高そうな松坂には酷い仕打ちに見えたし、引くのは当然だった。


「あれ酷かったけどさ、丸坊主よりマシだと思った。」

「そうだけど…割と後ろの方ヤバかったよね?」

「いや…実は皆が帰った後、残って刈屋のハサミさばきを見学したんだ…。そしたらスゲェ格好いい髪型になってさ、それがまた松坂にスゲェ似合ってんの。」


そう、刈屋がプロ顔負けの技術力で髪の毛を整え、見事サッパリ格好良くなってしまったのだ。

スッキリした後ろ髪に長めの前髪だけを残すというお洒落なバランス。

もうこれは美容院行っただろ!というレベルの完成度だった。


「一部から見れば刈り上げの刑なんて可哀想って見せしめになるけど、実際は格好良くしただけなんだよな。」

「本当に…?もしかしたら偶然かも。」

「いや、だって天野"本当は久々に刈り上げがしたかったんですけどね"って笑ったんだ。あれは相当慣れてるな。きっと最初から整えるつもりだったんだ。」


思い出して興奮してきた。

あの松坂のあの髪型の似合いようと言えば…テンションが上がる。




「よく分からないや。天野隊長ってつくづく謎が多いよ。」


賀川は困り顔でため息を吐いた。




あきゅろす。
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