03

米江咲良はクラスでよく目立つイケメンだった。

変人的な意味で目立っている織戸とは違い、クラスの中心で常に指揮を取っているような男で、成績は知らないが顔はそれなりに整っていた。

米江を初めて見たのは高校一年生の時。

たまたま同じクラスとなり、ちょっと煩い人が居るなぁくらいの印象だった。

そんな彼とは何故かよく目が合っていたので自然と名前を覚える程度には存在を認識していた。

まさかその一連の流れが、彼のドーパミンを放出させるお手伝いをしていたなど、この時は知る由もなかったが。

「黒沢…好きだ。」

「え…?」

まぁそういうことなんだよね。

彼は陰の文字を具現化したような俺に告白してきたのだ。

あの時の衝撃は一生忘れられないだろう。

なんせ生まれて初めての告白だった。

「ごめん…米江の事はクラスメート以上に見れない。」

「んでだよ…。よく目も合うし…本当は好きなんだろ?」

目が合っていたのは米江が俺を見ていたからではないかと今なら推測出来る。

それにしても目が合っていただけで好きと言う感情に繋げるだなんて…実に短絡的な考えだと思った。

「目が合っていたのはたまたまで…勘違いさせたならごめん。」

こうして俺は米江咲良を振ったわけだ。




「クラス一の人気者。陰の大蛇、黒沢直に敗れる。」

告白の翌日、今まで話したことのなかった織戸が俺の目の前に現れてそう言った。

最初は何の事を言っているのか分からなかったが、時期に理解する。

織戸は昨日の出来事を知っているのだと遠回しに言ったのだ。

「なんで知っているのかと言うとだね、昨日偶然事件現場に出くわしちゃったのですよ。あ、大丈夫大丈夫、誰にも話す気はないからさ。」

「へぇ…。」

「まさか信用してない?僕口は堅いって評判なんだ。まぁ活字化する可能性は高いけど、特定されない程度に書くだけだから安心して?」

「ハァ…?」

「あ、やっぱり信用してない。と言うか変な人だって思ったでしょ?これがよく言われるんだよねー。でも変人って最高の褒め言葉じゃないか。凄く良い言葉だよね。変人って言葉好きなんだ。」

織戸は最初からこんな奴だった。

聞いてもないことをベラベラと喋る。

そんな彼に対する印象を口にしたのがいけなかった。

「ナルシスト。」

「え?」

「この学校の人は大概異常だから、この世界で君はただのナルシストだよ。悪いけど変人のカテゴリーは全く褒め言葉じゃないな。正直、一般人と同等の呼称だと思う。」

なんて何も考えずに言った結果が今の付きまといだった。

彼にこんな事を言ったのは俺が初めてだとか何とか言って、異様に俺を気に入った織戸は面倒な程俺に構うようになった。

ただ問題なのがこの後、米江が俺を恨めしいが如く睨み付けるようになったのだ。

「自分を振った男が次の日から別の男を侍させている。プライド高き奴の心はズタズタに切り裂かれた。さぞかし君が憎いだろうね。可哀想に。」

「そう思うなら構うな。去れ確信犯。」

「当事者であり第三者であり台風の目であり…。こんなに美味しいご飯はないよ。あぁ美味しい。」

端から俺の話を聞く気がないのは知っていた。

それにしても織戸は酷い性格をしている。

これ以上周りに人格破綻者が増えないことを祈るばかりである。


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