02
「直ちゃん直ちゃん。」
「…。」
「直ちゃん直ちゃん直ちゃん直ちゃん、」
「うるさい何?」
当然の如く俺の周囲に居座る織戸を当然の如く無視していたが、目に余る振る舞いに思わず口が出てしまった。
一瞬勝負に負けたような気がして悔しくなったが、織戸に対して微かでも対抗意識を持っていることを悟られては思う壺になると、速やかに冷静さを取り戻した。
「熱い視線送ってるよ、米江が。」
「…チッ。」
「そうきたか…。」
米江と言う名前だけを先に聞いていたならば、俺は顔を動かさなかっただろう。
しかし織戸の策略に見事ハマった俺は、顔も見たくない米江の顔をしっかりと見てしまった挙句、視線まで交えてしまった。
そんな経緯で出た舌打ちにそうきたかと織戸の声。
何がそうきたかだ。
俺が米江の熱い視線に喜ぶとでも?
馬鹿馬鹿しい。
第一熱い視線の根元はどう考えても憎悪の塊だろうよ。
「米江って本当に直ちゃんが好きだよね。」
「へぇ。」
「好きと嫌いは紙一重って正に米江を表したような言葉だよ。今度彼に話しかけてみようかな?君たちの関係は実に興味深い。」
俺はもう米江や織戸を見まいと、適当に明後日の方向を向いた。
これ以上面倒事はご免だった。
「とは言っても大概の事は既に知っているし、彼の中身は至ってシンプルなものだけどね。もっと意外性が欲しいなぁ。」
「単純で良いじゃないか。考えが読めると動きやすい。」
「そう、それなんだよ。自分の思ってる通りに人が動くのは大変愉快なんだけどね…物語としてはかなり物足りないんだよな。」
「あぁそう。じゃあつまらない物語を書きなよ。」
「直ちゃんは読んでくれる?」
「読まない。」
つまらない物語なんて誰も読むはずがない。
そもそも米江の物語など興味がないし、出来ることならば関わりを持ちたくなかった。
「それじゃあ追求し続けるよ。米江恋物語の結末までね。」
織戸の台詞に口から反吐が出るかと思った。
しかし織戸の発言も強ち間違いでもないので、返す言葉も出なかった。
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