キャンディーボックス
※静雄×サイケです。
※静→→←←サイみたいな。
キャンディーボックス
トテトテトテ
新しい家を探索する小さな子猫のような可愛らしい足音がドアの奥から聞こえてくる。
耳を凝らして聞いてみれば、その音は次第に大きくなって、こちらに向かってくる様子がわかった。
トテトテトテ
トテトテトテ
バタン!
「しぃずちゃーん!」
誰かを確認する暇もなく、胸の中に白い物体が飛び込んでくる。
勢い余って後ろに倒れた体を起こし、触り慣れた形のいい頭を撫でてやると、胸の中の物体は気持ちよさそうに目を細めた。
「…久しぶりだな、サイケ」
「サイケね、しずちゃんにあえなくてさみしかったよ?イザヤくんがいじわるしてね、しずちゃんに会っちゃだめっていうの。だからサイケ、がまんしてたんだよ?えらい?」
「おー偉い偉い。よく我慢できたな」
「えへへへへー」
再び頬を撫でてやれば、今度は本当の猫のように体にすり寄ってきた。
静雄とサイケに、これといった関係はない。
"友達"、とでもいえばそれで終わってしまうが、サイケからしてみれば静雄は保護者的な存在でもあり、数少ない遊び相手でもある。
最も、本物の保護者は引き取り人の折原臨也であったが。
静雄に会いたくなるといつも家を飛び出して静雄のアパートに遊びに来てしまうのがサイケだった。
セキュリティー万全のマンションから抜け出すのももう手慣れたものだ。後々主人にみっちり怒られるのを知っておきながら。
なんやかんやで今日も静雄の家へ遊びにきたサイケは、ご機嫌の様子で静雄にくっつき離れない。
静雄も無理に引き剥がす気はなく、サイケの甘えっぷりをただただ受けとめるだけだ。
臨也より一回り小さい身体をあやすように支えながら、静雄はサイケに問いかけた。
「なあ、お前今日どうすんだ?」
「きょう、って?」
首を傾げて、不思議そうに静雄を見つめる。
「…今日。もうこんな時間だけどよ、…泊まってくか?」
少し間をあけたのちに、サイケは目を輝かせて静雄の体へと抱きついた。
「いいの!?やったあ、しずちゃんちにおとまりぃ。いぇーい」
「……そりゃまあ…」
時間が時間だからな…。
時計に目をやれば、時刻は午後の10時をまわっていた。
中途半端な時間に家を訪れたのは故意か、それとも耐えきれずに…か。そんなことを考えながらさっそくサイケのための布団を引っ張り出す。
一瞬臨也の存在が頭に浮かんだが、いちいち連絡なんかしなくても平気だろう。あいつは意外と我が子を野放しにするタイプだ。
まあサイケから聞いた話だとそうでもないみたいだったが。
「サイケ」
敷き布団にダイブするサイケに、静雄が小さく呼びかける。
「なぁに?しずちゃん」
サイケは布団の上で芋虫のように転がりだすと、楽しそうな笑顔を静雄のほうへ向けながら言った。
「寝るときぐらいは、そのヘッドホンはずせよ?」
ショッキングピンクのヘッドホンを指差しながら仁王立ちする静雄。
サイケはへ?と首を傾げて頭に手をやる。
「なんでえ?」
「なんでって…危ねえだろ。いつも寝るときはずしてねえのかよ…」
「うん、イザヤくんと一緒にねるときいがいははずしてないよ。そのときはね、イザヤくんがこんなのじゃまだっていってはずしてくれるから…」
「……ああそうかい」
呆れた表情でわざと会話を中断させる。
―臨也の野郎、なに変なとこで紳士気取ってやがる…。
多少苛つきながらも、サイケのヘッドホンを取って布団に入れさせる。
まだ眠くないとぐずるサイケを無理やり静まらせて眠りにつかせれば、静雄はヘッドホンを片手に部屋を出た。
「……」
バタンといった瞬間に、家中がしーんとした沈黙に包まれる。
(あいつのせいで、もうこんな時間か…)
再び時計を目にすれば時はすでに日にちが変わっていた。
自分の寝る用意も済ませてサイケと同じく早く床につかなければと考えていると、ふと自分の片手に目がいった。
奇抜すぎるピンクの、ヘッドホン。
普段サイケが着ている白いコートとのコントラストが非常にマッチしていて艶やかに見えるのはいつも思っていることだ。
それも見ているだけで十分だったので直接言おうとは思わなかったが。
何を聴いているわけでもない(と思う)のに、ああやっていつもかかさず身につけているのは臨也に言われてか、と一人で納得してみる。
「…ま、可愛いから別にいいんだけどな」
隣の部屋まで絶対に聞こえないようにこっそり呟いた。
「それにしても食っちまいたいくらい可愛いよな、あいつ」
そんな変態的なことを言い残して立ち止まっていた廊下を後にした。
明日の朝食は、何にしよう。
サイケが来たから豪勢にしてやんねえと臨也にケチだと思われる。
いや、むしろ俺の朝食はサイケでいいんだ。…気持ち悪いとかいうなよ
俺が思ってるのはそういういけない意味じゃなくて、悪魔でも健全的な意味でだな。
まあ正直いうとどっちの意味でもあるんだけどよ、
あの色、かまぼこみてえでうまそうだろ?
「あー早く寝よ」
自分の頭の心配をして寝床につく。
もう一泊ぐらい、させたいよな。
そんなことを思ったのちにはすでに夢の中だったのだが。
緩やかに愛染
愛しい君、この指とまれ
『もしもし、シズちゃん?』
「臨也か、なんだ」
『あのさあ、サイケがさっきから家飛び出したっきり帰ってこないんだけど、そっち行ってない?』
「さあなあ、知らねえ」
『知らないって何だよ!?』
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