僕の所属は最低グループ
うかれてしまいます、その一言
僕の所属は最低グループ
「死んだ魚の目」
「?」
目玉をくるりと回してそれはそれは楽しそうに臨也は呟いた。
「一人で食べる冷めた鍋、ありきたりな素っ気ない会話、空腹なときに見るグルメ番組、ゲラゲラアホっぽく笑う奴」
目を閉じて、人差し指を立てながら得意げに話し続ける。
「後払いだと思ってた先払い、電波時計の自動調整、CDディスクのちょっとしたキズだとか、俺のことをおちょくる双子の妹」
「………」
ぺらぺらぺらぺらと止むことのない言葉の嵐は、わけもわからず静雄の脳内を襲った。
元々こいつは普通の人間とは少しかけ離れているおかしな奴だったが、今日はいつにも増して様子がおかしい。電波時計の自動調整って…まあ確かに物凄い速さで回り出すときあるけどな。
絶えないクエスチョンマークが静雄の頭の上を飛び交う。
「それがどうした」と口を開く前に、臨也の口のほうが先に開いてしまった。
「これ全部、俺の嫌いなものだよ」
――そうだと思った。
いつもは悪逆非道で人間としてひん曲がったことをするくせに、変なところで几帳面・多々抜けているところのある臨也に、これほど似合うアホな好き嫌いがあるだろうか。
馬鹿だ、そう改めて確信した。
「へえ」
返しの言葉が見つからなかったので、無難に相づちを打つ。
「でも、人間っておかしいよね」
臨也は、先ほどとは違った表情でこちらに話を振ってきた。
回転チェアをぐるぐる回して、幼い子供のように無邪気な声で話し始める。
「嫌いなものにこそ、好きなもの以上に意識をする。段々とその『意識すること』が『無意識』に変化して、日常の一環として溶け込んでしまう。そりゃあいつも嫌いなもののことを考えてるわけじゃないよ?ただ、好きなものを前にしたときの感情より、嫌いなもののほうが感じる要素がたくさんあるってこと」
そう言って、座っていた(というより乗っていた)イスから勢いよく床へ飛び降りると、
「…もう一個だけ、嫌いなもの、あったの忘れてた」
頭一個分違う静雄の顔を、下からまじまじと覗くように見つめる。
静雄は思わずぱっと視線を背けると、臨也はぐいと腕を引っ張って距離を縮めてきた。
「シズちゃんが、一番嫌いだった」
そう言って、憎たらしい程に満面の笑顔を静雄に向けると、臨也は近くのベッドに倒れ込む。
怒りを通り越して呆れ果てた静雄が大きな溜息をついた。
――俺だって同じだ。ちら、とベッドを見やると、ダンゴムシみたいにうずくまっている臨也がいた。
こんなことを聞くためにわざわざ俺はこいつのマンションまで連れて来られたのか?
実に馬鹿げている。こっちは仕事で疲れているというのに、このどうしようもないニート野郎。クソ、お前の嫌いなもんなんて知るかよ挙げ句の果てには俺が一番嫌い?んなもん心底ありがてえわ。
そう言って帰ろうと思った瞬間、またもや先を越されてしまう。
「ねえ」
「あ?」
「キスしてよ」
横になった臨也の表情は全くもって見えない。
まるでそれは、恥ずかしくてそっぽを向いた女子みたいだった。
「…俺が一番嫌いなんじゃねえのかよ」
「嫌いだから、嫌いだからして欲しいんだよ」
遊んでくれなくて拗ねた子供みたいに、不機嫌そうな声で臨也は言った。
女みたいに細っこい体は、ベッドの中でさらに小さく丸まる。普段もこんなに無防備ならすんなり殺せたのにな、なんて思ってしまう程に。
それが見ていられなくて、静雄は、小さく足音を立てて臨也の元に近寄った。
「臨也」
名前を呼んで、
「…っ……」
後ろから手を入れ肩を抱いてやって、
「…んっ…」
ぶつかるようにキスした。
くだらねえ。キスしながら思っていたことだ。
一体全体何してんだか。
臨也が満足した頃に、唇を離す。赤く紅潮した頬を手で撫でてやった。
「これでいいか」
臨也は小さく口を開く。
「…俺、キス上手い人嫌いなんだよね」
「……」
「その点では、シズちゃん好きだよ」
「……手前殺されてえか」
「嘘だよ嘘」
そう言って今度は臨也から頬にキスをしてきた。
「今度は俺からね」
「シズちゃんで練習するしかないんだから、付き合ってよ」
嘘つけ。
内心そう思いながら、その練習とやらに付き合った俺は実に甘い。
俺の嫌いなもの?
そりゃあいつだってこいつ、折原臨也だ。
ただ、
こいつとのキスは、嫌いじゃない。
慰めてやるよ
上から下まで。
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