Hello,Good-byeなんてのは*
※裏注意!
Hello,Good-byeなんてのは
所詮くだらない言い回しである。
俺とトムさんは、所謂借金の取り立て屋という職に就いている。
それ故に、ドンドンと扉を叩いて金を請求することには慣れている。
主に俺はトムさんの用心棒として側にいて、稀に飛びかかってくる客を跳ね返す係なのだが。
「シズちゃーん開けてよー寒いよー」
しかし、いくら取り立て屋だからといって、外からドアノブをガチャガチャ回され悲痛な叫び声を聞くのには慣れていない。
「ねー今日はなんの日だか知ってるー?シーズーちゃーん!」
鳴り止まないベルの音は、俺の耳をますます不愉快にさせた。
今日は12月24日。
毎年忘れかける、クリスマスイブだ。
*****
「なんですぐに開けてくれないわけ」
口を尖らせながら文句を垂れる訪問者は、赤いサンタ帽を被った臨也だった。
その顔は、不機嫌そうな顔をしていたものの、すぐに口角が上がり何かを企んでいるようなにやけ面に変わった。
今日はクリスマスイブ。
仕事は珍しく休みなものの、静雄にクリスマスを祝う活気などなく、予定はもちろん入れるつもりは全くなかった。
最近買った真新しいベッドに寝転がり、テレビをつけ適当にチャンネルを回してぼーっとしていたら、急にドアがノックされたのだ。
だるい面持ちで玄関まで歩くと、外から聞き覚えのある声が聞こえる。
まさかと耳を疑ったが、扉の覗き穴を覗くとそこには案の定―、
「シズちゃんも相変わらず素直じゃないよねぇ、本当は俺のこと大好きなくせに」
「…通報するぞ」
「なんの罪で〜?」
「不法侵入」
「……一応君の承諾を得てから入室したんだけどなあ…」
臨也はそういって頭に乗ったサンタ帽を取り、まるで犬のように頭を揺さぶった。
そして、先ほどまで静雄が寝転がっていたベッドに背中からダイブする。硬っ!と小さく呟いてゴロゴロ転がり始めた。
サンタ帽まで被って、余程の暇人なのだと口から溜息がこぼれる。
静雄は、飽き性の臨也に投げ捨てられたサンタ帽をつまみ上げ、再び頭に乗っけてやった。
「で?」
「…ん?」
「クリスマスがなんだって?」
帽子をぐりぐり頭に押し付けて髪をぐしゃぐしゃにしてやる。
「なになに、シズちゃんもしかして意外と乗り気?」
「……この格好で、んなことあるわけねーだろ」
休みの日は大抵スウェットと高校のときのジャージ姿でいる静雄を、臨也は上から下まで見下ろした。
そして、いつものようなにやけ面に戻った。
「別にいいよ、そんな格好でも」
「…着替えるつもりはさらさらねえけどな、手前みたいなのに気遣う必要は全くないしよ」
「あれれ、もしや寝起き?口調がいつもより恐いよ」
「………」
こわーいと続ける臨也を傍目に、もう一つ大きな溜息をつく。
「そんなご機嫌斜めなシズちゃんに、俺はプレゼントを所望したい。」
「……金はねえよ」
「物はいらない、何故なら金で買えるものなら既に全部持ってるから」「うぜえ」
そう一喝して、きょとんとする臨也の横っ腹を足の裏で蹴ってやった。
確か、去年のクリスマスイブにも臨也は現れた気がする。
だが、ドアは開けてやらなかった。
仕事で疲れていたし、何よりもよりによって臨也なんかを家にあげる筋合いはなかったからだ。
そう思うと、最近になって臨也への感情が緩み始めたのかもしれない。
自分の変化を恐ろしく思いつつも、再び彼の腹をまさぐるように足で蹴り転がす。
「プレゼントー」
痛い痛いと叫びながら臨也は言う。
それがおもしろくて、いつの間にか自分まで笑顔になっていたようだ。
「おおまけにまけてー、俺からのサプライズ」
細い腹をぐりぐりやっている途中に、臨也は勢いをつけてこちらへ飛びかかってきた。
「うわ」
思わず声が出る。
足がもつれて、臨也に覆い被さる形になってしまった。顔と顔がもう少しで触れてしまうほどの距離だった。
今思えば、故意も欠片ほどにあったのかもしれない。
「俺のからだをあげよう。」
その言葉に、動揺せずにはいられなかった。
*****
行為に及ぶ前、脱衣をしながら臨也は言った。
「俺って襲い受け似合うよね」
言っている意味がさっぱりわからなかったのでそこはスルーしたが、どうやら襲い受けとは先に攻めておきながら下のポジションを保つということだと後に自己解決した。
それよりも、聖なる前夜祭に俺達は何をしているのか。
「…っ…噛むなよ」
「んっ、ふ、」
俺のモノをくわえ込むのは、先ほどのサンタ帽を被った臨也である。
どうせだったので、クリスマスらしくサンタ帽を被せてみたのだが何故か自分がおかしな性癖を持った変態に感じてしまう。
何しろ、聖夜には程遠い。
「……っ、あ、出す、ぞ」
「ふ、んん…っ」
ぐちゅ、と音をたてて臨也の口内に液体が放たれる。
一瞬嫌そうな顔をしたものの、どこか満足げに喉元を鳴らして白濁を飲み込んだ。
そういえば、口に出したのは久しぶりだったな。
「……、…はあ」
「……疲れた?」
「…いや、…俺が疲れててもお前がまだなんだから、つまんねえだろ…?」
「…シズちゃんのそういうとこ、俺大好き」
そういって、臨也はなんの邪気もないような澄んだ笑みを浮かべる。
恥ずかしくて直視できなくて、思わずそっぽを向いてしまった。これは仕方ない。その、思いもよらず、可愛かったから。
流れで、今度は臨也をベッドに押し倒した。
改めてやると、これはそうとう恥ずかしい。やる側はもちろんのこと、やられる側なんてどこを見ていいんだかわからないだろう。
恥ずかしそうに目を伏せて、どうしていいかわからないような素振りを見せる臨也が良い例だ。
そんな臨也の頬に一つキスをする。
「…力、抜けよ」
「……わ、かってるし」
そして、静かに臨也の足を開かせた。このときの妙な空気は毎度不思議な気持ちになる。
「もう濡れてんな」
さっそく指を入り口にあてると、そこは不意をつかれたようにひくついた。ゆっくりゆっくり指を侵入させる。ずぷりと音を鳴らす度に臨也は高い声を漏らした。
「んっ…、や、っあ、」
指の付け根まで入ったところで、臨也の顔色を伺いながら指を動かし始めた。
ここでいつも、腰が一際大きく浮くような、所謂"イイところ"を探すのだ。
「あ、っ、っんん」
「…ここか?」
「っしら、な、いっ…ん、ぁ」
あまりの快楽に腰を降るしかない臨也は、まるで全ての箇所が性感体のようだった。
クリスマススペシャルってやつか。
そんなバカみたいなことを考え、侵入する指を二本に増やす。
まさかこんなことをしていて罰が当たらないように、この声が隣の部屋にまで響いていないように、俺は終始願っていた気がする。
「…っ、!あ、あっ」
指をばらばらに動かして、ちょうど臨也のイイところに触れたようだった。
そこを的確に咎めると、勢い余って昇天させない程度にぐちゅぐちゅと掻き回す。
「んんっ、はっ、ぁ、シズちゃ、っん…」先走りの液が、ますます入り口を濡らしていき、静雄の指をぬちゃぬちゃと湿らせた。
それをローション代わりに今度は左手で臨也のモノを扱き始める。
よく滑るから、いつになく楽に擦れたものだ。
声の音量も大きくなって、そろそろ果てそうな頃を見計らって手の動きを止める。
物足りなさそうな体を抑えるかのように、優しい手つきで腹を撫でてやった。
すると、しばらく喘いでしかいなかった臨也が口を開いた。
「最高のプレゼントだよ」
「……これからがだろ?」
「俺なんかより、もっと、いっぱい、シズちゃんに気持ちよくなって欲しい」
そう言って、静雄の唇にキスを落とす。
「…だから、一緒にイって、一緒にキスしよ。」
これが俺にとって最高のクリスマスプレゼント。
無邪気に笑う臨也を見て、黙ってはいられなかった。
乱暴で愛のないセックスには程遠い、今までしてきた中でも特別に見えるセックスだ。
始めはなんて罰当たりな、なんて思ったが、俺はこいつといるのが一番落ち着くらしい。
「ああ、わかった」
こんな、クソ臨也なんかと。
*****
「は、あっ、んん…っぁ」
入り口と自身とを伝う白い糸がとても心地よかった。
これが切れたらおしまい、なんて気もしてきた。
耳に残る臨也のいつもより高い声が自分の感情をさらに高ぶらせる。
「い、ざや…、…っ」
奥を突く度に締め付けるそこは、いつもより感度がいいように思えた。腰の振り方もいつもより大胆な気がする。
「…はぁっ、あ…っも、い、くっ…!」
途切れ途切れに発した言葉は限界を示していた。
中は熱くなり、あと一突きすれば確実に果ててしまうだろう。
タイミングを見計らい、静雄は自身を入り口の深くない部分でいったりきたりさせた。
「俺も、いく、っ…」
そして臨也の太腿を掴み、ぐいと勢いよく奥を突いた。
「…っあ、あっ…!」
臨也の中に熱い証しを残すとともに、唇と唇とで相手と深く繋がった。
お互い声は出なかった。無理やり口を封じ込めた所為か、臨也は果てたあともなお体で息を続ける。
中から溢れ出てきた白濁の液体が、シーツをべっとりと濡らす。
時刻はちょうど、12月25日をまわったところだった。
*****
「じゃあね」
小さくそう言って扉を出る。
相手からの返事はなかったが、あとから優しく鍵を閉める音が聞こえた。
「……」
外はかなり冷え込んでいる。
真夜中のクリスマス街を徘徊するというのは実に不思議な気分だった。空を見上げても、サンタがトナカイを連れている姿は見当たらない。
帰り際静雄に貰った安っぽいマフラーに顔をうずめる。
体には、まだ何かが残っている気がしてならなかった。
取っても取っても取れないような何かが、すごく煩わしかった。
「あんなクソ野郎なんかに何させてんだか」
口から白い息が出る。
結局は自分も静雄のことをどう思っているのかわからない。貴重なイブの一夜をあいつと共に過ごしたと思うと少し悔しい気もするが、特別嫌な気もしない。
やるだけやって即家から追い出すなんてのは、一般の女性から見たら最低最悪な男なんだろう。
だが、俺は別にそういうところが嫌いなわけではなかった。
何故なら、俺は女じゃないから。
さっさと家に帰ろう、と足を速める。
池袋の駅まで早歩きで歩いた。時刻は夜中の0時半を回ったところだが、ギリギリで間に合うかもしれない。
もし間に合わなかったら全部あいつのせいにしよう。一晩中イタ電してやろう、と考えていたところでポケットをまさぐりようやく気付いた。
……携帯を、忘れた。
「くっそ」
もうどうにでもなれ。
一度きりのせいしゅんを
君のために使ったのに、
ぼやける君にメリークリスマス
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