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僕らは離ればなれ
※臨也の単体話です。
※BL要素なし。
※臨→→→人間






いつの間にか僕らも 若いつもりが年をとった
暗い話にばかり やたらくわしくなったもんだ






「ねえ波江」


なによ、と耳だけを傾けながら書類の整理をしている働き者の波江に、俺は静かに問いかけた。
革張りの椅子をぐるりと回転させて勢いよく飛び上がる。

「この世で一番美しいものってなんだと思う?」

突然なんだという顔をすると思ったら、またかと呆れたような顔をされた。
これと似たような質問をいくつか以前にしたような気もするが、いくら忙しいからって切羽詰まりすぎちゃだめだよ。これは上司からのちょっとした気分転換を与えてやるという気配りだ。

「……どうせまた人間とかいうんでしょ?」

目も合わせてくれない。
だが、波江はずばり俺の思っていたことを的中させてくれた。

「そう。改めてね、感じたんだよ。人間は素晴らしい。初心に戻ってものを見ることってさ、やっぱり重要なことだよね」


喉が乾いて、自分でコーヒーでも作ろうかとキッチンに向かうと、通り際にちょうど波江が溜め息を吐いていたのが聞こえた。
疲れが溜まるのはよくないね。波江の分も作ってあげよう。なんて心配りのできる人間なんだろう俺って。

でもこんな暑い日にコーヒーなんてよせばよかったか。
いやあ、この季節室外で働くリーマンさん方には本当に尊敬の意を示すよ。
俺には到底真似出来ないことだ。この炎天下の下、ネクタイを締めてひたすら日光を浴びながら街を闊歩しないといけないんだからさ。暑いのなんのって、下手すれば倒れるよね。もはや笑い事じゃないって。


煎れたてのコーヒーを一つ、波江のテーブルに置いてやると、テレビのリモコンを手に取って適当にチャンネルを回してみた。
どこからか『私は忙しく働いてるっていうのにあんたはお気楽でいいわね』みたいな視線を感じたような気がしたが、そんなの気にしない。気楽に生きてなんぼの世の中だ。

あは、このガキ、一人だけ振り付け間違って踊ってるよ。
恥ずかしいねー、教育番組のこういうのって、自分が幼いときに出れたりすると成長してからは一種の自慢になるけどさ、同時にちょっとこっぱずかしい過去にもなるよねぇ。
『これ、俺だぜ』っつって自分が小さいときの放送を友達とかに見せてやってもどなた様ってなるだけだもん。
俺だったら出演料だけぼったくってそそくさ家帰っちゃうね。人形と話したって何も楽しくないし。


…ま、実際見てる側としては楽しそうで何よりってとこなんだけど。

「ねえ波江」


無数の子供達を見てるのにも飽きたから、再び波江に話しかけてみた。

今度は何よ、といった顔で睨んでくる。おー怖い。せっかくの美貌が台無しだ。

「俺ももう歳かな」
「…何馬鹿なこといってんだか」
「ちょっとテレビ見てただけで目痛くなってきてさ。ドライアイ?だっけ?10秒間も目開けてられる自信は無いなぁ」
「…人間は美しい、とかいう話題はどこいったのよ…」
「いやあ、かくも人間は素晴らしいよ。というより、それぞれの個性に磨かれた人間の一つ一つが好きなんだよね、俺は」


目をこすったふりをして、コーヒーを一口口に運ぶと、思い切りソファに寝転がった。



俺はね、
シズちゃん以外なら世界中に存在する人類を全て愛すことが出来る自信がある。

例え人間のほうが俺を嫌っていたとしても。

人間はもう、嫌でも俺という存在を振りほどくことは出来ない。別に受け入れようとはしてくれなくていい。むしろ、それだとこっちが困るんだよね。


俺は、特定の人物を愛おしく想い、澄んだ愛情を注いでやることが出来ないから。


だからさ、思ったんだよね。
それなら全員丸ごと愛してやればいいじゃないか、って。
駄目、嫌、嫌い、近づかないで、って、好きなだけ言えばいい。
そうしたら俺は近づかないし、つまらないこともしない。

だけど、残念ながら俺の脳みそは人間を嫌えないようになってるんだよ。
拒むことを拒む。いうならそんな感じか。



これはただの悪循環なんかじゃない。

人間との恋愛に対する、片思いってやつかな。





テレビから『また明日ね〜』と別れを告げる声が聞こえた。
今日の夕飯はなんだろう。
なんとなく鍋の気分だったから、この時期に我慢大会とでもいこうじゃないか。まあ冷房ついてるしあんまり関係ないけど。


ふと目をやると、テーブルに波江が無言で持ってきてくれた目薬が置かれる。
はは、あんなの嘘なのに。
なんだかんだ優しいなあ、波江さんは




人間はぜーんぶ、俺の思い通りだ。
抱き締めて、俺の一方的な愛を誓ってやりたいくらいに、君達が大大大っっっ好きなんだからさ。




ねえ、たまにはキムチ鍋がいいな。










すばらしい日々だ 力あふれ すべてを捨てては生きてる

君は僕を忘れるから その頃にはすぐに君にに行ける













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ユニコーンのすばらしい日々を聴きながら書いてました。
臨也さんが歌ってるところを早く聴きたくて仕方ないです
12月まで長いよー









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あきゅろす。
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